2013年5月3日金曜日

札幌便り(6)(新版)


※以前、札幌便り(6)として掲載したものの前半を新しく書き直したものです。

茫漠とした気持ちで迎える三月。まだ雪は積もったまま、これより積もることはないものの、溶けゆく四月までは間があります。

二月尽はじまるものもないままに

ブーツを履いて出掛け、ひとと行き交うときにはどちらか雪の壁に寄ります。

細道や雪を踏み抜くすれちがい

三月三日の節句の頃、幸いに蛤(はまぐり)のお吸い物をいただきました。

蛤の地模様競うお吸い物

まだ寒い啓蟄の日に。はぎましこは鳥の名です。

啓蟄の土の色してはぎましこ

こちらでは、鰊(にしん)のお刺身がスーパーに並んでいます。値段も手頃。鰊の別名は「春告魚」、道民にとってはもどかしい名前です。

札幌の春告魚や小骨刺す

ちくりちくり、と刺します。けれども、春の足音もたしか。

札幌のひと傘を差す別れ雪

北海道のひとは、雪に傘を差さない、と言います。こちらの雪は、コートがはじくから濡れないのです。それが、ある日、示し合わせたように街の人々が傘を差しています。「ああ、もうびちゃびちゃと溶ける雪なのだな。」と、納得しました。

春雨やまだ傘差さぬ怒り肩

同工異曲の句。そんな札幌の雪も、いつしか雨に。長い冬が終わる感慨。氷の層となっていた根雪も、ついに、じゃりじゃりとアスファルトを見せます。

氷解く自転車でゆくおじいちゃん

札幌では、自転車は約半年しか乗れません。なぜか、春先に見掛けるのはおじいちゃんが多いよう。

あかときを待とうつもりが朝寝かな

札幌の夜明けはいささか遅く、早朝に目が覚めても、まだ暗いかと目を閉じて寝過ごしてしまいます。朝がだめなら夕べを。春は午後のカフェもよいです。

しるしるとシェードを上げぬ春夕焼

雪景色を遠ざけるくらい、赤みが差すのです。