2013年6月23日日曜日

【俳文】札幌便り(8)


松落葉ベンチのうえで寝るひとも

五月、長く雪に閉ざされていた円山公園が、茶色い大地を剥き出しにしているのには、力強い季節の移りゆきを感じる。

誰(たれ)よりも遅くて蝦夷の桜かな

日本でおそらく一番、遅い桜はエゾヤマザクラ。札幌にはソメイヨシノが少ない。

制服もスーツもありや花見客
木の下でカメラもつ子も花の宴

恒例の「花見」は、五月とともに始まり、公園も火気解禁となる。気象庁の「開花」は5月の半ばだったが、その前から、飲めや歌えの宴が開かれていた。

公園の花もけぶりなバーベキュー

じきに、楚々として奥ゆかしい山の桜が、ちらほらと花をつける。花見は、北国のひとにとっては、春を迎える行事らしい。円山公園に隣り合う北海道神宮も、参拝客で賑わう。

参道の花に埋める円い山

北ヨーロッパには、春の訪れを喜んで「五月の木」(メイ・ポール(英)、マイバウム(独))を立てる、という行事があります。春は短い夏の始まりでもあるような、季節の感覚。

実際、そこここに春の気色が。こちらのひとは、桜が咲くと「春が来た。」と言う。もう五月も後半だが、たしかに色とりどりの花が街路や花壇、家々の庭にあふれる。とりわけ、チューリップに目が行った。

小雨がち咲きたそうなるチューリップ
好きな子のほっぺに添えるチューリップ
来札のひと出迎えるチューリップ

その品種の多さと、あちこちに咲く様は、チューリップ王国のオランダを思わせた。北海道は、暦の上の夏を迎え、土地の暦では「春」を迎えているのでした。そうしたわけで、いくつか、遅れた春の句を。

母よりの手紙を開くクロッカス
遅咲きの桜のように笑むひとも
たんぽぽの乱れ咲く喜びと悲しみと
鶯の初音に白く二輪草
こでまりと握手しそうでできないな

鶯の初音を聞いたのは、二輪草の咲く山道でした。エゾエンゴサクという水色をした花も、五月の半ば頃、群生していました。こでまりは、まるで握手を求めるように風に花を揺すります。それから、夏の句を。

大木の曲がりたる根に清水寄る
新緑を編み上げている途中の木
小満や北の緑は薄緑

小満。万物がしだいに満つる時節。北国の林や山は、濃緑ではなくて、薄く白樺の肌を映したような浅い緑、黄緑に染まってゆきます。

夏の夜自転車一つ月一つ

今年の夏は、どこへゆこうか。