2014年5月4日日曜日

【ご報告】本のカフェ第四回@札幌プランテーション(森彦)

 今回は、森彦さんのご厚意もあり、広々とした屋根裏スペースにて開催しました。大きな倉庫を改築したカフェ、プランテーションのグルニエ(フランス語で屋根裏)に15人の参加者が集まってくれました。



 一冊目は、稲垣足穂『一千一秒物語』。ひとの暗部を描く作品が好き、との紹介者さんは澁澤龍彦が「星の王様」と称したタルホのことが気になっていたよう。天体、数学、自分のなかの子供の部分と響く。ショートショートのさらに短いもの。水晶越しに夜を眺めている気分になる。キラキラした夢の話は、ずれと反復を伴って、箱のなかに箱があるような入れ子構造をも思わせる。断片のかたまり、パズル遊びのような童心を感じる、とも。
 

 二冊目は、Helmut Newton(ヘルムート・ニュートン)の写真集。1920年にベルリンで生まれる。ヴォーグなどのファッション誌で仕事をするが、一度、死にかけたのを機に、それ以後は好きな写真を撮り続けることにしたらしい。2004年、自動車事故で亡くなった。作風は、エロティックで退廃的と言われる。紹介者の方にとっては、撮られるひとが媚びないのが特徴で、徹底的に作り込まれ、自然な写真はひとつもないのも面白みとのこと。
 

 三冊目は、山田詠美『ぼくは勉強ができない』。紹介者の方は、高校生の頃に読み、主人公の時田くんに惚れ込んだそう。「ぼくは、絶対に、白黒つける側になりたくないんです」「ぼくは、自分の心にこう言う。すべてに、丸をつけよ。とりあえずは、そこから始めるのだ。そこからやがて生まれて行く沢山のばつを、ぼくはゆっくりと選び取って行くのだ」。また、角が集まって180度になると「まっすぐ」、360度で「まる」になるという比喩も気に入っている、と。
 

 四冊目は、片山令子『ブリキの音符』。司会側が「片山さんの絵本……」と言うと、「絵本ではなく、詩集と思っています」との答え。活字中毒かもしれない紹介者さんは、あるとき病気で文字が読めなくなり、音楽を聴いていた。そのときから、詩は音楽なんだ、と考え始める。片山令子さんの4つの詩集はどれも好きだそう。「鳥の卵は/巣から転がり落ちないように/あのように歪んだ」(詩「石の絵本」『夏のかんむり』所収)。
 

 五冊目は、佐々木美智子『新宿、わたしの解放区』。「おみっちゃん」と呼ばれる著者は、昭和の激動期を大変ユニークに生きた女性。この本は、彼女の半生記。根室に生まれ、幸福な子供時代を送るも小学2年生で太平洋戦争が勃発。兄の死を原体験としてもち、NTTに勤めるが19歳で結婚し、郷里を離れる。1年後に離婚。東京へ出て美容学校に入り、すぐに自主退学。22歳、新宿で屋台を始めて……。昭和を代表する有名人も数多く登場する。
 

 これらの発表ののち、フリートークタイムへ。片隅で「アートルーム」を開く。ニュートンの写真集のほか、手渡しでアニメーターやイラストレーターが描いて綴ったスケッチブック。それに、個展のDM、お知らせ、美水(よしみず)まどかさんのユニークなオブジェ、参加者の撮った写真などが展示される。わいわいがやがや、にぎわいました。


 二次会はそのままグルニエで10人ほどで夕食やドリンクを楽しみ、無事に閉会しました。5人の紹介者をはじめ、参加者のみなさま、プランテーションのオーナー市川様、スタッフのみなさま、ほんとうにありがとうございました。それから、受付ほかのお手伝いをお願いし、当日、大活躍をしてくださったゆーうちさんには改めてここで感謝を申し上げたいと思います。


【書誌情報】
稲垣足穂、『一千一秒物語』、新潮文庫、1997
Helmut Newton, "SUMO", TASCHEN, 2009
山田詠美、『ぼくは勉強ができない』、新潮文庫、1996
片山令子(作)、ささめやゆき(絵)、『ブリキの音符』、アートン、2006
 片山令子、『わすれる月の輪熊』、村松書館、1981
 片山令子、『夏のかんむり』、村松書館、1988
 片山令子、『雪とケーキ』、村松書館、2009
佐々木美智子、『新宿、わたしの解放区』、岩本茂之(聞き書き)、寿郎社、2012