2014年5月8日木曜日

【エッセイ】雨と木曜日(6)


画家さんとお話をした。いまは60歳近いひとだが、「子供の頃は、字が読めなかった。LD(学習障害)だったと思う。大人になってから本を読み始め、本は好きだが、それでも一文字一文字ゆっくりと追うように読む」と言う。そのひとから勧められた本を30分ほどで僕が速読すると、驚かれた。「もう読んだのですか」「はい。ですが、僕は読んだ端から忘れていってしまうんです。漠たる印象は残るんですが」と答えると、笑われた。

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 また珈琲の話。イエメンにモカという港町がある。かつて、そこから珈琲豆がたくさん出荷されたため、「モカ」はコーヒーの代表格だ。(ちなみに、チェーン系のお店では甘いチョコレート風味のコーヒーを「モカ」と呼んで出す。)ところが、最近、珈琲屋さんでエチオピア産のモカを見た。「イエメンじゃないのですか」と尋ねると、「エチオピアもモカですよ」との答え。紅海を挟んで近いから、同じ名前で呼ぶようだ。
 
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 缶コーヒーに関する本を読んだ。『缶コーヒー風景論』。著者は、70年代から900缶を集めた「コーヒー缶コレクター」。メーカー数で言えば、153社におよぶ。すぐ製造中止になるものも多く、また、同じ商品名でもちょっとずつデザインが変わるらしい。北海道でしか売っていないもの、特急列車のなかでしか売られなかったもの。軽快な語り口は冗談半分にも聞こえる。巻末の著者略歴は、「1959年東京生まれ。けん玉一級。」
 

 【書誌情報】『缶コーヒー風景論』、山崎幹夫、洋泉社、1993