2014年5月29日木曜日

【俳文】札幌便り(19)

4月の後半、日に日に暖かくなるも山の雪は白く残る。

円山の雪も消えしな昭和の日

これで冬の名残は去り、桜の咲くゴールデンウィークを迎える。そのなかに立夏があり、札幌もここではさして遅れをとらず、早々に初夏の気分に浸る。さて、そのあいだにある短い春の句をいくつか。

このくらいで満開かなあ山桜
見上げてぞ花の迷路に入り込み
札幌の木ごとにたがう花の色

東京でよく見るソメイヨシノとはちがって、ここ円山公園ではエゾヤマザクラが主で、それも木ごとに枝ぶりも背丈も花の色もばらばら。

花の下ビール空けるや朝っぱら

恒例の「火気解禁」はこの時期だけ。バーベキューにけぶるが、少し離れるとひとけがない。

花の陰ぽつねんと居る鴉かな
誰もいない球場の向こう花の雲

桜はなにごとか思い出させる花なのか、いろいろの想念も湧く。

花びらや思考の塵の降るごとく

おじいさんとおばあさんが並んでベンチに腰掛けているのを見かけた。

老いらくのふたり並びて柳の芽

木蓮も東京に遅れることしばし、開花する。

紫木蓮つぼみの頃はうすみどり
白木蓮みんなで乾杯する手のよう
連翹(れんぎょう)や目立ちたがらぬ後ろ姿

モクセイ科の連翹。黄色い花はあざやかなのに、印象は桜の影に隠れる。

ムスカリはいつも数え切れないね
ムスカリに重く接吻くまんばち

ムスカリ二句。可憐でたくさん咲く。一句目、字足らず。

そこらじゅうたんぽぽになる水の音

実際には、たんぽぽ(春の季語)がわっと咲くのは立夏の後だった。

夏立てりオンコの日陰ことに濃し

「オンコ」はイチイの木。葉が密な常緑樹。

新緑の葉の一枚を数えたし
新緑に笑っているよスヌーピー

北海道に喜びのあふれる夏の初め。

薫風の吹き抜けゆくや大通

大通公園をはじめ、市街と公園のあちらこちらにチューリップが咲く。

午前中チューリップまだ開かない
クインオブナイトと名乗りチューリップ

午前中だからというわけでもないが、語感で詠む。クインオブナイト(騎士の女王)は品種。

ちびちびと蟻上り来る青い服
ずぶ濡れの切り株に這う蟻の姿

蟻の句。

ライラック一本二本三本と

札幌を代表するリラ(ライラック)の花。次々とたわわになりゆく。

ベーコンをじゅっじゅと焼ける夏の朝

卵と合わせて朝食を取ったら、散歩へゆく。どんどん芽吹くポプラは、樹冠の方により葉が生い茂り、圧巻。

枝先に初夏の風あり白樺(しらかんば)
小満の六本ポプラ空に森