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2014年7月25日金曜日

【ご報告】本のカフェ第9回「ムーミン+哲学」

2014.7.24. 19:30 - 21:30
札幌、カフェ・エスキスにて。


 札幌の読書会になりつつある「本のカフェ」(第1回目は東京)。今回は、イレギュラーなかたちで開催しました。ふだんは、3時間枠で紹介者が3,4人なのですが、今回は2時間枠で、メインは対談形式で読む『共同幻想論』。ちなみに、冒頭に『ムーミン谷の彗星』の紹介もおまけでついたので、「ムーミン+哲学」と題しました。


【自己紹介】
 はじめは、いつも通り自己紹介。今日のお題は「好きなキャラクター」。みなさんに、「好きなキャラクター」ひとつとお名前を紹介いただきました。「スナフキン」「ももクロ」(アイドルですが)「おねがい!サミアどん」「お茶の水博士」、回答に悩んだ方もいらっしゃいました。

スナフキンに扮して

【ムーミン谷の彗星】
 自己紹介が終わると、『ムーミン谷の彗星』の紹介。これは僕が担当しました。今回のメインは哲学書ですが、それだけだと内容が重すぎるかと思い、軽いおしゃべりを15分。
『ムーミン谷の彗星』は、ムーミン・シリーズの第1作です。(全8作あります。)この作品だけ、テイストがちがって、ほかは平和なムーミン谷なのに、ここでは恐ろしい彗星がひしひしと迫り、地球が危機に見舞われます。原典の初版は1946年なので、戦争体験の不安が反映されているのでしょう。とはいえ、登場人物たちは愉快です。いじけるスニフ、飄々たるスナフキン、穏やかなムーミンママ……たちの隠れた名台詞も紹介。
 
調子に乗ってパイプをふかす真似をする

【共同幻想論】
 さて、メインコーナーへ。紹介者の方と僕が対談のかたちで、50分かけて吉本隆明『共同幻想論』の紹介をしました。吉本隆明は、「戦後思想における知の巨人」と評される詩人・評論家・思想家。2012年没。その主著は3つと言われますが、そのなかでももっとも有名なのが『共同幻想論』です。それでは、内容へ。


 まずは、主要な概念をおさえます。「自己幻想」「対幻想」「共同幻想」について。「自己幻想」は個人の心の領域を指し、芸術や感情の全般が含まれる。「対幻想」は、性の関係で「夫婦」を基盤として、家族(兄弟、姉妹、父と子など)が含まれる。(吉本は、「家族」も実体としてあるより、「幻想」として心的に構成されるものと考える。)「共同幻想」は、3人以上のひとが集まったときに生まれる幻想領域で、村落共同体から国家、宗教などが含まれる。

紹介者さんが用意してくれたレジュメ

ここから、本文の読み解きに入るのですが、紹介者さんは「ひとりの心の動きがやがて国家をつくっていくまで」という「軸」を設定します。そして、おもむろにバンカラな口調で、オリジナル・ストーリーを語り出しました。
むかーし昔、ある男が夜、山道を歩いていると、恐ろしい形相の山男にあった、と。這々の体で村へ帰り、皆に話すと口々に「俺も見た」「俺は女にかどわかされそうに…」。こわいねえ、今度からは山へ入る時は一緒に行こうか、などと言い合う男たちに長老が一言。「夜中に一人で山へ入るな。これはムラの掟じゃ」。
吉本隆明さんがあぐらをかいて、聞き手(インタビュアー)に向かって畳の上でくつろぎながら、語り出すかのような。「黙契」「禁制」(タブー)「遠野物語」「巫女」といった前半のキーワードをおさえて、ストーリーに繰り込んでゆきます。ときに笑いをとりながら、(紹介者さんはお笑い好き)「世界で一番好きなのは吉本さん。存命ならタモリさん」。ちなみに、(娘の)よしもとばななさんも大好きだとか。


≪村落共同体から国家へ≫
 話を戻すと、「暗黙のうちにこうしよう」という黙契が「ルール」として確定されて、「禁制」(タブー)を生み出す。ルールがあると、それに逆らう「罪」が発生する。罪は、はじめ「祓い清め」られるものであるが、のちに「法」のもとに「罰」がくだるものとなる。こんな風に、村落共同体は「高度な国家」へ進んでゆきます。

 紹介者さんにとって印象的だったのは、「ひとは、自然の一部であるのに対他的な関係に入り込んでしか生存を保てない」(自然から自立して、他人と人間の集団を作らねばならない)ということ。そこでは、自己幻想(わたしはこうしたい!)と共同幻想(あなたがたはこうしなさい!)が真正面からぶつかる。そのために、禁制(タブー)や法も生まれるわけです。

≪対幻想から共同幻想へ≫
 また、幻想の構造という観点からは、「対幻想」から「共同幻想」への流れも読めます。「対幻想」が夫婦から兄弟・姉妹へ拡大してゆく過程で、母系社会は他の血縁集団と混じりながらより大きな社会へと発展します。そこに、(古事記にみられる)「父と子」の相克といった世代の観念も生まれます。こうして、対幻想は共同幻想と重なりながら、それを作り替え、現実の「国家」のかたちを定めるのです。
 
 どことなくロックンロールな調子で、ポップさを交えながら、ぐいぐいと聴き手の心を掴む紹介者さん。僕はと言えば、哲学を専攻していた時期もあるため、主に「学者さんならこんな風に注釈をつけるかな?」といったコメントを挟んでゆきましたが、あれはリズムを乱したのか、ちゃんとかみ合ったのか。ジャズのセッションみたいな気分になりました。



【フリータイム】 
 フリータイムは、50分ほど。みなさん、『共同幻想論』について、旺盛につっこんだ質問をしてくださいました。「全共闘時代は、バイブル扱いで、でもみんな「序」しか読まなかった」「むずかし〜」「ムーミン・シリーズを読み始めたい」といった感想もあり。

同じ本。右は紹介者さんが付箋を貼りまくったもの

集合写真

【おわりに】
 『共同幻想論』は、哲学書のなかでもハードだったと思いますが、みなさん熱心に耳を傾けてくださり、感謝です。おもしろがってもらえたことが、僕としても喜びになりました。紹介者さん、吉本隆明への愛情と熱意が伝わってきました。きれいにまとまったレジュメと、勢いのある語り口の対照も面白く。写真を撮ってくださったNさんもありがとうございました。騒がしい会になったかもしれませんが、受け入れてくださったカフェ・エスキスのマスターご夫妻にも感謝の気持ちを伝えたいです。そして、天国の吉本隆明さん、ご冥福をお祈り申し上げます。
 
主宰・文責 木村洋平


追記:紹介者の方が制作してくれたレジュメをこちらで公開しています。『共同幻想論』のキーワード・キーフレーズが美しくまとめられた素晴らしいレジュメだと思います。(PDFダウンロードには対応していません。)また、紹介者さんが今回の「本のカフェ」をまとめてくれたブログ記事がこちらです。『共同幻想論』に関してこれ以上のまとめは望めないのでは、と思わせます。ぜひどうぞ!