2014年10月1日水曜日

「ロバのおうじ」リュートと朗読



先日、札幌で「ロバのおうじ」朗読音楽会を聴いた。リュート奏者の永田斉子さんが主宰している音楽会で、「ロバのおうじ」という絵本を朗読者が読みながら、それに合わせてリュートを奏でるというもの。

「リュートソング」でも「リュート弾き語り」(ひとりでやる)でもなく、朗読者の方と協力しながら、さらに、プロジェクターで挿絵も場面ごとに投影しながら、リュートを奏でる、めずらしい試みだ。

「ロバのおうじ」はグリム童話を下敷きに、子供向けに翻案されたおはなしで、ほるぷ出版から出ている絵本をもとに台本を組んでいる。あらすじはかんたんで、ロバの姿で生まれたおうじが、おひめさまの愛を得て、幸福になる物語。

おはなしでは、このロバのおうじさまがリュートを弾くという設定になっており、そこで、物語全体にわたって永田さんのリュートが伴奏をつける。すべて永田さんの選曲で、どこかで聴いたことのある民謡調のものから、ダウランドの有名曲も入る。

リュートを伴う朗読は、古くはアラブの慣習に遡り、アラブの楽器「ウード」がヨーロッパに移入して「リュート」となる流れに伴って、ヨーロッパに輸入された。アラブでも詩の伴奏にウードが用いられたし、ヨーロッパのリュートは叙事詩、英雄の物語などに伴われたという。たとえば、12、13世紀のシチリアがそうであった。

さて、リュートと朗読、それも30人規模のギャラリーでの演奏はすばらしい聴き応えだった。100〜200人のホールでのリュートソング・コンサートは聴いたことがあるが、リュートは歌声にかすんでしまいがち。この小さなスペースだと、リュートの音色がふくよかに響き渡る。

また、朗読者の声とリュートが、ちょうど同じくらいの音量で響き、平行し、絡み合い、掛け合いをするのも面白い体験だった。おふたりは左右に分かれて座るのだが、右から朗読が、左からはリュートが、ときにそれに先んじて、ときに遅れて奏でられる。

永田さんは、この朗読音楽会を通じて、リュートを知らないひとにも馴染んでもらおうと、リュートの普及も目指されている。今後、活動を本格化させてゆき、全国を公演して回ろうとのお考えもあるようだ。すばらしい取り組みだと思います。

これから、あなたのまちで「ロバのおうじ」朗読音楽会があれば、足を運んでみてはいかがでしょう。リュート愛好家のひとりとして、リュートや古楽と呼ばれる音楽に馴染みの薄い方にも、すでに十分、それらを楽しんでこられた方にも、おすすめしたい公演です。

blog : 永田斉子の『リュートと過ごす日々』
【書誌情報】ロバのおうじ、M.ジーン・クレイグさいわ、バーバラ・クーニー絵、もきかずこ訳、ほるぷ出版、1979