2014年10月30日木曜日

【エッセイ】雨と木曜日(26)

2014.10.30.


CDの話。子供の頃は、J-POPのCDを持っている、というのが友達の間でステータスになる時代だった。シングルCDは、ふつうのCDの半分くらいの直径しかなく、再生できるのか不安になるプレイヤーもあったのを思い出す。小学生の頃か、父が所有しているCDには、触らせてもらうのにそっと丁寧に扱うよう注意されたのを覚えている。いま、その注意深さの感覚は、紙ジャケットの安価なCDにもレコードのようなレトロ感を醸す。

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エチオピアのコチャレ農園の珈琲豆をいただいた。僕の好きな「モカ・イルガチェフェ」の一種で、酸味が強い系統なのだが、じっくり淹れてみた。珈琲の概念が変わった。大袈裟に思われるかもしれないけれど、ほんとうに飲んだことがない。つい先日、濃厚なブルーベリージュースを喫茶店で飲んだが、それと同じ味わい。蒸らしの時からブルーベリーの香りが立ち、落とし終えて口に運ぶと、甘酸っぱいジュースのよう。素晴らしい珈琲でした。

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『マルタの鷹』を読んだ。ハードボイルド小説の元祖と言われるダシール・ハメットの代表作。改訳決定版ということもあり、読み応えがある。原著も99円でKindleで買えたが、決定版とはいえ、やはり英語の感覚を移す難しさ、面白さも感じる。主人公のサム・スペードはタフでハードで、どこか悪魔的な魅力のある探偵。奇抜なトリックや見事な推理ショーよりも、彼の台詞と行動に惹かれる。感情表現を排した硬質な文体も独特。

【書誌情報】
『マルタの鷹 改訳決定版』、ダシール・ハメット、小鷹信光訳、早川書房、2012