2015年1月3日土曜日

【童話】かわいそうなオーロラ

ひとりの小さな女の子のことを話しましょう。
彼女は「かわいそうなオーロラ」(エルメス・アウロラ)と歌われています。
ひかりのような女の子でした。まさしく、ほんとうにひかりでした。
そのおはなしをしましょう。

***

オーロラは6才でした。お花もみとれてしまうほど、可愛い女の子でした。
彼女がほほえんだら、まわりじゅうほほえみました。
彼女が笑ったら、草木も笑いました。
その肌はひかりでした。

ある晩、みんなでダンスをすることになりました。
男の子と女の子で手をつなぎました。みなさん、小さなお手々でした。
ぎゅっと結んで、くるくると踊りました。けれども、男の子がオーロラの手をとろうとして言いました。
「オーロラ、君の手はさわれないよ!」

かわいそうなオーロラ。
エルメス・アウロラ
エルメス・アウロラ
かわいそうなオーロラ、あなたはひかりでできていました。

オーロラのからだはひかりのようでした。ひかりにかすんでいました。
ひかりでできていました。だから、だれもオーロラにさわれませんでした。
踊りの男の子も、「ちぇっ、つまんないや!」とそっぽを向きました。
オーロラがぎざぎざの葉っぱに触ろうとしても、手が葉っぱをすりぬけてしまいました。

ちいさなオーロラ、おさないオーロラ。
エルメス・アウロラ
エルメス・アウロラ
ちいさなオーロラ、おさないオーロラ。あなたはなにもわるくないのです。

生まれつき、オーロラはひかりでできていました。
だから、だれもオーロラにさわることができず、だから、なにもオーロラはさわれませんでした。
太陽に照らされて、虹のようにかすんでいました。霧のように透けていました。
そうでなければ、ふつうの女の子でした。

かなしみのオーロラ
エルメス・アウロラ
エルメス・アウロラ
かなしみのオーロラ あなたはやさしい七つの色でした。

オーロラはそんなわけでだれともダンスできませんでした。
ひとりでつったっていましたが、だれも手を握れませんでした。
オーロラは歌いました。歌声は水のように染みわたりました。
静かな歌でした。

ゆくの ゆくの オーロラ どこへゆくの
エルメス・アウロラ
エルメス・アウロラ
ゆこう ゆこう オーロラ 彼方へ

オーロラはノルウェーへゆきました。
ノルウェーになら、すわるところがあると思いました。
北の果てのノルウェー、ノルウェーの北の果て
そこには、ひかりの肌の王国があると言いますから。

ゆくよ ゆくよ オーロラ あとすこしだよ
エルメス・アウロラ
エルメス・アウロラ
来たよ 来たよ オーロラ ここじゃないかな

北の果て、ノルウェーでオーロラは石に腰掛けました。
大きな石でした。そこにオーロラは腰を下ろして、空を見上げて
その空は夜空でした。夜は長く、ひかりの帯が垂れ込めていました。
さらさらと揺れて、ほのかに匂い立つようでした。

ここだ ここだよ オーロラ きみはすわるところへ来たんだ
エルメス・アウロラ
エルメス・アウロラ
だいじょうぶ オーロラ ここはいいところだよ

石は変わらず、そこにあるけれど、だれも座ってはいません。
オーロラはひかりの帯になり、空で歌っていました。
「ずっとふつうになりたかった」
それだけがオーロラの願いでした。

かわいそうなオーロラ
エルメス・アウロラ
エルメス・アウロラ
かわいそうなオーロラ あなたは歌声をのこして

そして、だれもいないノルウェーの北の果てに歌が流れました。

***

これで、ひかりの女の子オーロラのおはなしはおしまいです。
オーロラはどこかから来てどこかへゆきました。
みなさんもオーロラのことを思い出したら、ひとつ口ずさんでみてください。
エルメス・アウロラ
エルメス・アウロラ
かわいそうなオーロラ、と。

続編はこちら。「右手が眠ってしまった男の子