2015年6月27日土曜日

【古楽ラノベ】こがくりお〜第二幕「ゆる古楽部ひとりぼっち」

第一幕「りゅーと誕生」よりつづく。

あらすじ:古楽一家に生まれた佐藤りゅーとは名門校、国際自由学園のリベラルアーツ学部に入学し、もう古楽とは距離を置いて、キャンパスライフをエンジョイしようと思っていた。しかし……

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ここは、国際自由学園の敷地のはずれ、学生会館の2階だ。やたらさびれた会館の一室、ベニヤ板で仕切られた空間にひとりぼっちで座っている。扉の外には「ゆる古楽部」と書かれたホワイトボード。どうしてこうなったのか。


***

数日前、居間で「逆境を越えて〜アンドレアス・ショル」というドキュメンタリーDVDを見ていると父が帰ってきた。「おお、逆ショルをみとるのか」「逆襲のシャアみたいに言うなよ」「このBGMはいまひとつだよな〜」。なに言ってんだ、むかし自分で監修したんじゃねーか。

そう、俺の父さんは、世界で活躍するヴィオラ・ダ・ガンバ奏者、佐藤隆。ガンバ好きで彼のことを知らない者はいない。つまり、世間ではほとんど誰も知らない。(ごめんなさい、サヴァール先生)。

その晩、おもむろにオヤジがのたまった。
「ゆる古楽部を設立しなさい」
「は?」
「りゅーとよ、国際自由学園にゆる古楽部を設立するのじゃ」
いや、ドラクエの王様風に言われても。
「なんで俺が」
「部長はおまえだ」
「ちょっと待て。古楽科のサークルだってあるっしょ。アンサンブルもオケも」
「あいつらはガチ勢だ」
「……?」
「おまえは「ゆるい古楽」を目指せ」
父親の目は確信に満ちている。
「ゆるい古楽ってなんだよ。父さんだってガチ勢だろ」
「もちろん。世界はわたしが極めるから、おまえには日本で裾野を広げてほしい」
どこまで身勝手なんだ、このオヤジ。おれは、机を叩いて断った。
「いつまでも父さんの言いなりになるのはごめんだ」
「ああ、そんなアマデウスみたいに反抗するのはやめてくれ」
「誰だよ」
「モーツァルトよ」と、母が割り込んだ。嘆かわしそうに父が言う。
「わたしは、おまえを古典派に育てた覚えは……」
母はにっこり微笑む。
「そうよ。まわりのママたちがモーツァルトを聴かせながら母乳をあげていたとき、わたしはあなたにフーガの技法を聴かせていたのよ」
知らんがな。父親は身を乗り出す。
「もし、おまえにコンスタンツェがいるのなら副部長にしたらいい」
「あら、りゅーとにそんな甲斐性が?」
「はっはっは。意外とドン・ジョヴァンニだったりしてな」
「あなた、やめて!古典派のはなしは」
「すまんすまん。私が許せるのはCPEバッハまでだ」
この両親にはかなわねえ。俺は折れた。

こうして、俺はゆる古楽部を立ち上げることになった。