2015年12月30日水曜日

【本と珈琲豆】うらおもて人生録


色川武大の『うらおもて人生録』。著者の半生をふり返るように素材にしながら、若い人に語りかける「人生の技術」についてのエッセイ。芸術家をはじめ、ファンも多いと聞いた。

著者は、終戦の年に16,7歳であった。いまではアスファルトに覆われた東京に「泥」しかなくて、人間もビルも飾りだと思える光景を目にした。「劣等生」であって学校から放逐された少年は、ばくち打ちになり、22歳くらいで足を洗うまでばくち場で本気で打つ。

その後、編集者としてサラリーマンになるが、これも転職続きで、底辺から世間を眺めるようにして過ごす。ここがもっとも「小市民」的な時代であり、十年足らずで小説家となって以後、死ぬまで書き続けた。

色川武大の基礎にあるのは、「ばくち」の心理やリアリティであり、そこから実人生にも応用の利くいろいろを学んだ。

なにごとも長続きするひとは、「九勝六敗」くらいを目指す。全勝も全敗もない。それで、九勝六敗を目指していても、しのぎ合って生活していれば、たいてい五分五分に落ち着く。運とはそんなものだ。

おれたちは、ひとを好きになり、愛したり、助け合ったりしてゆく。特定のひとりを、ではない、できるだけ多くのひととだ。けれども、それでも「しのぎ」合わなければならない。とりわけ男の人生は戦いだ(書かれた当時は昭和60年頃)。

勝ちも負けも身体で知って、ひとつくらいは大きな欠点ももちながら、なんとかかんとかやっていこう、という哲学が、滔々と、行ったり来たり、ときに整合性もなく、綴られる。スケールの大きな、いまの時代にはない器と思想の持ち主。なんとも胸に残る文章だ。