2016年2月19日金曜日

【ご報告】本のカフェ第28回@札幌

日時:2月13日(土) 19:30〜(21:30頃からそのまま二次会)
場所:詩とパンと珈琲 モンクール
参加人数:15名+主宰
参加費:1500円(パン、ドリンク付き)


今回は、時間にもゆとりがあり、くつろげるパン屋さん、モンクールにて。海外文芸4冊が紹介されました。最初の紹介者さんが画用紙にイラストを描いて来てくださって、それが注目を集めました。



一冊目は、イアン・マキューアン『贖罪』。ブッカー賞受賞作家。ヒロインは、若き日に嫉妬心から男にえん罪をかけてしまう。投獄された男は、兵役につき、1940年に激戦地へ赴く。ヒロインは77歳まで償おうという意志を抱き続けて、告白を小説に書くのだが……。本のスタイルは、たとえばヴァージニア・ウルフの「意識の流れ」など、英国古典作品の手法や設定を積極的に採り入れたもの。文学史へのオマージュである。




二冊目は、ユーゴスラヴィアの作家、ダニロ・キシュ『死者の百科事典』。絶版で手に入りにくい。旅先である図書館に入ると、そこにはすべての死者の死に方が記された本が収められていた。そこで父の死に出会う。そんな表題作をはじめ、短編を集めた作品。明言しないが、諷刺を交えて、ヒトラーやスターリンをモチーフとして扱う。死を身近に感じる私小説である、とのこと。訳者あとがきを含む、充実したレジュメも配布。


三冊目は、ポール・ギャリコ『雪のひとひら』。猫の小説『トマシーナ』や『ジェニィ』も好きだという紹介者さんは、大人の絵本と呼ぶ。新潮文庫の昔の版を持って来てくださり、原マスミさんの装丁と挿絵がよいよね、と。「雪のひとひら」が地上に落ちて、結婚して子どもができて死にゆくまでを追う。「懐かしくもやさしい思いやり」といった表現で、天から見守る神の存在が暗示されており、安心感を覚える。詩人による翻訳もすばらしい。



四冊目は、ジェイ・ルービン『日々の光』。著者は、日本文学の翻訳家で、村上春樹とは長年のパートナー。この作品はエンターテイメント小説で、とにかく先が気になる。真珠湾攻撃後の在米日系人の物語と、東京五輪直前の日本に来た青年ビル・モートンのふたつの物語を交互に描く。反戦思想が大動脈。また、第二次大戦時の、日本人に対するアメリカでのレイシズムもテーマ。関連書籍と本作品についてまとめたレジュメを配布。


フリータイムは、イートインスペースとカウンタースペースのふたつにおおよそ分かれ、行き来しながら、6〜10人ずつでおしゃべりしました。珈琲・紅茶、ジュース、ビール、ワインが行き渡ったほか、自家製のパンやケーキを持ち寄りいただいた方もいらっしゃって感謝。




「翻訳ミステリー札幌読書会」から3人参加いただいたこともあり、ミステリーについては世代の幅広く、盛り上がりました。また、ヨーロッパの文学や現代史、さらにここ数十年のサブカルなど、話題が広がりました。


いつもながら大変お世話になりましたモンクールのオーナー、4名のすばらしい紹介者さん、ご参加いただいたみなさま、SNSなどで見守り、応援してくださったみなさまに感謝です。持ち寄りも、おいしくいただきました、ありがとうございます。


* ちなみに、3月12日(土)に「翻訳ミステリー札幌読書会」が開かれます。課題図書は『さむけ』(ロス・マクドナルド)。すでに満席に近い人気のようですが、リンクを張っておきます。こちら


次回、モンクールでの開催は3月19日(土)の夜、概要は今回とほぼ同じです。こちらもよろしくお願いいたします。

文責・主宰:木村洋平
写真:Norikof、木村

スペシャル・サンクス:受付と写真を手伝ってくれました、すぐれた写真家のNorikofさま、ありがとうございます。お忙しいなか、お世話になりました。

【書誌情報】
『贖罪』、イアン・マキューアン、小山太一訳、新潮文庫、2008
『死者の百科事典』、ダニロ・キシュ、山崎佳代子訳、東京創元社、1999
『雪のひとひら』、ポール・ギャリコ、矢川澄子訳、原マスミ絵、新潮文庫、旧版
『日々の光』、ジェイ・ルービン、柴田元幸・平塚隼介訳、新潮社、2015