2016年3月22日火曜日

【ご報告】本のカフェ第30回@札幌


今回も詩とパンと珈琲 モンクールさんでの開催。サイエンス、現代ドイツ語文学、日本の歴史小説、自己啓発本と、ジャンルを横断しながらの濃密な紹介タイムとなりました。フリータイムはいつも通り、パンと珈琲、紅茶、ビール、ワインで楽しまれました。



一冊目は『ブラックホールと時空の歪み ーアインシュタインのとんでもない遺産』。アインシュタインが一般相対性理論を発表して100年の節目に重力波(それは、予想されながらも最後まで観測されなかったため、アインシュタインが遺した最後の宿題と呼ばれた)の観測に成功したニュース。これを受けての紹介で、ブラックホールの名づけ親ホイーラーの、その弟子がこの100年の歴史と重力波観測のLIGO計画についてわかりやすく記した一般書。


一冊目と二冊目については、紹介者の方がレジュメを用意してくれました。一冊目については紹介の内容に即した簡潔にして要を得たまとめ。二冊目については、本の周辺をめぐる読み物資料として配布してくれました。どちらも大変充実しています。お二方に驚嘆と感謝!


二冊目は、ゼーバルトの『アウステルリッツ』。「私」は主人公のアウステルリッツとアントワープで知り合い、以後、偶然に会っては話を聞く。散文で歴史を語る掴み所のない文体。個人の記憶だけでなく、建築史・近代史も語られる。ホロコーストの物語であり、子供の時分にプラハからイギリスへ送られて難を逃れたアウステルリッツが、たとえば母の送られた中間収容所などを訪れて、記号を拾い集め結びつけてゆく。写真を挿入するスタイルも特徴的。


三冊目は、『負けんとき ヴォーリズ満喜子の種まく日々』。ヴォーリズは宣教師と言われるが、正確には信徒伝道者。メンソレータムの代理店を日本に作った実業家でもある。その妻、満喜子は旧華族で、身分ちがいゆえ、(日本人の)想い人と結ばれることができない。それで、結婚から逃げ回るのが上巻。下巻では、そんな生活の苦しみから洗礼を受け、渡米。帰国後にヴォーリズと結ばれる。タイトルの「負けんとき」は満喜子への激励の言葉より。


ここで、いったん休憩を挟み、空になった飲み物を注ぎ直したり、ちょこっとおしゃべり。


四冊目は、『自分の答えのつくりかた』。中高生や学生向けに書かれた自己啓発書。ピンキーちゃんという魚が主人公で、みどり国とあか国を行き来する。考え抜くこと、先入観をなくすこと、議論の仕方、批判の仕方、さらにマズローの欲求理論を教えるといった面白さも。紹介者は、高校卒業後、アメリカで5年を暮らして帰国し、すぐに社会人にならなければならないことにおおいに戸惑ったという。そのときにこの本が助けになったという体験談を交える。


9時頃からフリータイム。パンが運び込まれ、ワインの栓が抜かれ、ジュースを飲む人も。3つ4つの島に分かれて行き来しながら、おしゃべりするかたちになりました。


文学者はイケメンでなければならない(が、ゼーバルトはそうでもない)とか、『負けんとき』を音読してみたり、警察小説(ミステリ)の話題で盛り上がったり。


今回は、室蘭から読書会の主催者がお越しいただくという(車で2時間半!)楽しい出会いもあり、お互いのやり方や雰囲気の話を交換することもできました。


函館からおいしい名菓を差し入れてくれた方もいました。おつまみを持ってきてくれた方も。


ご紹介くださった4名、オブザーバーで遠方からも馳せ参じてくれたみなさま、SNSなどで応援・見守ってくださったみなさま、なによりモンクールのオーナー高橋さま、ありがとうございました。パンの運び入れや片付けを手伝ってくれた常連の方々にも感謝です。

次回は、4月29日(金)の午後、ティータイムに(アルコールも入れつつ)またモンクールさんで開催したいと思います。今後とも、よろしくお願いいたします。

主宰・文責・写真:木村洋平

【書誌情報】
『ブラックホールと時空の歪み ーアインシュタインのとんでもない遺産』、キップ・S・ソーン、林一訳、塚原周信訳、白揚社、1997
『アウステルリッツ』、W.G.ゼーバルト、鈴木仁子訳、白水社、2003
『負けんとき ヴォーリズ満喜子の種まく日々』、玉岡かおる、新潮文庫、2014
『自分の答えのつくりかた』、渡辺健介、ダイヤモンド社、2009

なお、一冊目のレジュメにあった関連書籍は以下の通り。

『相対性理論』、アインシュタイン、岩波文庫
『アインシュタインの相対性理論』、唐木田健一、ちくま学芸文庫
『アインシュタイン論文選』、ちくま学芸文庫
『ブラックホール 一般相対論と星の終末』、R・ルフィーニ、ちくま学芸文庫(*数式が多い)
『タウ・ゼロ』、ポール・アンダースン、創元SF文庫(*相対性理論を理解して書かれているSF)
『火星の人』、アンディ・ウィアー、ハヤカワ文庫SF