2016年4月1日金曜日

【本の紹介】ロダーリ『猫とともに去りぬ』


20世紀のイタリアで「おもちゃの作り手」と自称した児童文学作家、ジャンニ・ロダーリ。国際アンデルセン賞も受賞している。大人が読んでもとても楽しい。

『猫とともに去りぬ』は、空想あふれる短編集。「ファンタジー」という言葉の合う短編から、SFや超常現象もの、ときに民話的な作品も。ユーモラスな言葉遊びに満ちた文章は、訳もみごと!

16篇が収められるが、興味深いのは、

・現代の日常の風景が活き活きと舞台になる。
・発想があっちこっちへ自由。
・いろいろな知識、教養が活かされて彩りを添えている。

たとえば、バイクにのめりこみ、バイクと結婚したい青年の話。父親は必死に人間の女性を勧めるが……
「バンビはどうだい? 鍋用のふたとふた用の鍋を製造しているマンブリネッリ社の社長令嬢だよ」
「やだ。彼女はやめてよ。銅製電極のスパークプラグもない相手となんて、結婚したくない。」
釣り人のストーリーでは、魚の名前が次から次へ出てきて飽きさせない。また、金星の大統領が出てくる話ではこんなジョークも。
ロケットは勢いよく飛び出し、光の速さで(正確には、光よりも秒速二センチ速く)宇宙を駆け抜け
こんな風に心躍らせる文章が、ぱっぱっと紡がれてテンポがよい。

訳者解説では、この時期(『猫とともに去りぬ』連載時)社会への痛烈なアイロニーがみられるようになった、とのことだが、僕の印象では、どちらかというと社会から遊離した子供向けファンタジー世界の空虚ささえ、抱えているように見える。直接的な諷刺に傾かないところに好感を覚えるが、どうだろう?