聖チェチリアは、ローマの貴族の家に生まれた。結婚することになったが、地上で奏でられた祝いの音楽よりも、天の調べに心打たれ、処女を守り通して殉教したと言われる。
この話が、ボエティウスの「宇宙の音楽」(ムジカ・ムンダーナ。ひとの耳には聞こえない)と「楽器の音楽」(ムジカ・インストゥルメンタリス。地上の音楽のこと)の対比で解される。聖チェチリアは「宇宙の音楽」の方を尊んだ、と。
そのため、はじめ聖チェチリアは、地上の音楽である「楽器」を捨てる姿で描かれる。
聖チェチリアの法悦 |
これはラファエロによる「聖チェチリアの法悦」(1514年)。聖女は、いろいろな楽器を地面に捨て去り、いまオルガンからも手を離そうとしている。彼女が目を向けるのは天使たちの声楽である。
これより前、オルガンを奏でる聖チェチリアはすでに描かれていたが、それは天使や聖人と並んでであって、あくまで天の調べを奏でる、という様子であった。
聖チェチリアと天使 |
* ちなみに、天使がリュートを奏でる絵であれば、すでに15世紀にも描かれている。だが、聖チェチリアとリュートの結びつきは17世紀を待つことになったようだ。
天使とリュートの例:メロッツォ・ダ・フォッリ「キリスト昇天」(部分)1472年頃。
参考文献:『天使とは何か』、岡田温司、中公新書、2016