2017年1月6日金曜日

雨と木曜日(111)

2017.1.5.


木曜日更新のエッセイ。
今回は、マインドフルネスとホームレス〜「珈琲酔い」〜バルザック『ゴリオ爺さん』(光文社新訳)。


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友人からマインドフルネスを勧められた。「要は「過去」や「未来」ではなく、「いま」に意識を集中させるのですよ。けっこう効きます」。そこでふと、こんな話を思い出した。雑誌ビッグイシューで読んだのだが、ホームレスは「過去」でも「未来」でもなく「いま」に生きる。それが基本姿勢になっていくという対談だった。他方、そのために、「未来」に向かって行動しようというあり方が失われる危険もある、と。その間のバランスが大事なのか。

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珈琲に酔う話。巷ではカフェブームが続いているし、オフィスで日に10杯コーヒーを飲むひともいるという。一方で、「珈琲は体質的に苦手」というひとは昔から必ずいる。眠れなくなる、胃に来る、気分が悪くなる等。いつもではなく、ときどきそうなる、という話も聞く。僕も珈琲が大好きなわりに、珈琲を飲んだあと乗り物に酔いやすくなったり、くらくらしたりする。これを「珈琲酔い」と名づけられるのでは、と思った。

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バルザックを立て続けに読み、『ゴリオ爺さん』を光文社の新訳で読了した。訳は自然で、読みやすい配慮と活き活きした台詞回しがよかった。宮下志朗さんの解説もよいし。『ゴリオ爺さん』で描かれるのは、人間の非情と社交界の醜さ、そのなかで出世したり、社会の底辺へとこぼれ落ちるひとびとの人間模様だが、プルーストに通じる場面やスタンスを見つけた。かたや通俗小説(バルザック)、かたや特殊な詩的大長編。読み比べるのも面白い。

『ゴリオ爺さん』、バルザック、中村佳子訳、光文社、2016