2017年3月16日木曜日

雨と木曜日(120)

2017.3.16.


木曜日更新のエッセイ。
今回は、読んだ本の記憶〜「ブルマンよりこれ!」〜モーパッサン『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』。


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読んだ本の記憶って曖昧だ。『ロシア市民』という岩波新書を高校生か大学生になりたてで読んだのを鮮明に覚えている。が、ロシアは寒そうだ、ということ以外、内容を思い出せない。これは読んでいないのと同じことではないか?そういえば、ピエール・バイヤールの『読んでいない本について堂々と語る方法』というセコいようで実はユニークな読書術の本も読んだのだが、あまり覚えていない。『読んだ本について全然語れないひと』でも書こうかな?

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すごく美味しい珈琲にめぐり会った。本格的な珈琲店で「パプアニューギニア」の豆を置いており、そこに「ブルマンよりこれ!」という文句がついていた。ブルーマウンテンは巷に出回るものはニセモノも多いと聞くが、本物(だと思う)を飲んだこともあり、それでも「なるほど」程度の感慨しかなかった僕にとって、幻のブルマンより勧められる珈琲ならば是非、という意気込みで注文したところ、まろやかで酸味が行き渡り、納得の一杯でした。

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モーパッサン『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』は、短篇・中篇集。訳者の太田浩一さんは「傑作選」全3巻を目指して訳出中らしく、これが1巻目。「脂肪の塊」はモーパッサンの代表作に挙げられる中篇だが、たしかに構成も巧く、かつ人間をよく描き出している。師であったフローベールも賞賛した。ロンドリ姉妹も中篇だが、こちらは軽くてびっくり。ほかは短編で、怪奇、犯罪、日常、ドケチ、狂気など、バラエティ豊かで文章も申し分ない。

『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』、モーパッサン、太田浩一訳、光文社、2016