2017年4月16日日曜日

雨と木曜日(124)

2017.4.13〜20.


ふだんは木曜日更新のエッセイ。イレギュラーで2週分。
今回は、手をつなぐ子供〜レニー・トリスターノ〜『ほんとうの空色』。

街角で。子供がふたり手をつないで歩いていた。幼稚園か、小学生になったばかりという年頃。女の子は勇ましそうなくらいぐんぐんと、スキップするように歩く。男の子はその横でにこっとしてなんだかうれしそうだ。兄弟姉妹ではなさそうだ。もし、男の子が女の子と仲良しならば、きっと幸せな気持ちだろう、と僕は想像した。それは、ハリウッド映画をいっしょに観て感動する大人の恋人たちにさえ、匹敵する、やさしい幸福かもしれない。


***

レニー・トリスターノが美しい。『鬼才トリスターノ』(原盤は『レニー・トリスターノ』)のアルバムで名を馳せ、『ニュー・トリスターノ』のソロでまた新境地をみせたモダン・ジャズ期、異色のひと。ヒンデミットに師事して高度な音楽理論を学んだという。幼くして盲目となったことも有名。いわゆる「クール・ジャズ」に大きくは含まれるが、前衛的なテープ編集、クラシック寄りの音、自分の美学を静かに追求した、いい意味の変わり種。


***

『ほんとうの空色』は、スラヴ文学者の沼野充義さんがこっそり、おすすめする知る人ぞ知る児童文学。ハンガリーの多才な文筆家バラージュ・ベーラが書いて、自分でもお気に入りにしていた作品らしい。短いお話で、筋もジグザグと「次はどっちへ進むのかな?」という感じなのだが、そのあてどもなさにも魅力がある。本物の空を描き出せる絵の具で、小さな幸せを味わい、愉快な交友を膨らませる主人公。遊び心にあふれる冒険。


『ほんとうの空色』、バラージュ・ベーラ、徳永康元訳、岩波少年文庫、2001