2017年6月1日木曜日

雨と木曜日(130)中公新書を3冊紹介(2016〜2017)

2017.6.1.


木曜日更新のエッセイ。
今回は、中公新書3冊の紹介。『ビッグデータと人工知能』*『欧州複合危機』*『プロテスタンティズム』。



『ビッグデータと人工知能』はAI についてその限界と倫理的な視点を意識しながら書かれた本。AIをめぐっては「シンギュラリティ(技術的特異点)」が2045年頃に訪れ、コンピューターが人間を超える、という未来予想がある。これを肯定的、楽観的に捉える論者もいるなか、著者は「専門人工知能」(アルファ碁のような)と「汎用人工知能」とを区別し、後者の発展は現状難しく、シンギュラリティ仮説そのものが怪しいと言う。


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『欧州複合危機』は、教科書的な書きぶりの概説書。EUをめぐる「ギリシャ債務危機」「難民問題」「イギリス離脱」「テロ」といった危機が相互に関連し合っている様子を描く。こう並べると21世紀の時事問題だけのようだが、歴史的な視座をもって時間を遡る。すると、ヨーロッパは常に政治・経済的な危機と向き合ってきたことがわかる。たとえば、冷戦後のドイツをいかにヨーロッパの国際秩序へ取り込むか、という課題は長く尾を引いた。

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『プロテスタンティズム 宗教改革から現代政治まで』は、ユニークな歴史書。ルターの宗教改革をめぐっては、教科書にありがちな誤解を解くことから始める。そうして16世紀を概観したのち、軽々と19〜20世紀に跳躍する。ルター派が国教として政治と宗教を一体化させている保守であるのに対して、より先鋭的な改革をおこなった「洗礼主義」は主にアメリカで受け容れられ、政教分離のリベラルを形成する。そうした多様な宗派が共存を目指す物語。

『ビッグデータと人工知能』、西垣通、中公新書、2016
『欧州複合危機』、遠藤乾、中公新書、2016
『プロテスタンティズム』、深井智朗、中公新書、2017