仕事をしていて満足を感じられない精神科医ヘクトールが世界を旅しながら、「幸福のレッスン」をノートに書きつけていく寓話風の小説。
「レッスン」を取り出してみると……
レッスン1 幸福をだいなしにするよい方法は、比較することである。
レッスン6 幸福とは、見知らぬ美しい山のなかを気持ちよく歩くこと。
レッスン9 幸福とは、自分の家族が満ち足りていることである。
レッスン13 幸福とは、誰かの役に立っていると感じることである。
レッスン16 幸福とは、人と喜びを分かちあうことである。
◎疑問 幸福とは、脳内の化学反応にすぎないのだろうか?
レッスン18 幸福とは、一度に何人もの女性を愛せることである。(これは問題ありとしてヘクトールは自分で塗りつぶす)。
レッスン21 幸福を害する最大の毒は、競争心である。
などなど。
一般的なアドバイスが多いが、なかには不道徳なもの(レッスン18)を混ぜてユーモアを見せたり、山や太陽、海に触れるといった自然を称えたりと広がりがある。
この本はフランスで発売後すぐベストセラーになったそうだが、それは人類、とまでは行かなくとも、先進国の人間にとって普遍性をもった助言が多かったからかもしれない。
最後に、ヘクトールはいままでのレッスンを総まとめし、「高揚する幸福」と「静かな幸福」におおまかに分けたうえで、そこに収まらない幸福として、「他人といっしょにいる幸福」を挙げる。お互いに気遣い、また、だれかの役に立っていると感じられること。
こんな風に物語は終わるが、訳者あとがきも面白い。
著者はこう語ったそう。「私たちは義務を基礎とする社会から、できるかぎり幸福になろうとする社会へと移行したのです。そこでたえず自問を繰り返すわけです。はたして自分は自分にふさわしい幸福を得ているだろうか」(途中をカットしつつ引用)
この観点は、上の疑問「幸福とは、脳内の化学反応にすぎないのだろうか?」と併せて、どこか哲学的な響きをもっている。
***
ぼくはぼくなりに幸福について思うところ(哲学的に)があるが、それはまたどこかで書いてみたい。人に伝えようとしても、ぽかんとされることが多い。