2017年9月2日土曜日

雨と木曜日(142)

2017.8.31.


木曜日更新のエッセイ。(土曜日になってしまった)。
今回は、『ミッドナイト・イン・パリ』* ル・クレジオ『地上の見知らぬ少年』* 書店めぐり。


『ミッドナイト・イン・パリ』は、ウディ・アレン監督のコメディ。ウディ・アレンをちょっとアレンジしたような主人公は、臆病でインテリで理屈っぽいが素朴な男。現実的な婚約者一家とパリに来るが、1920年代を黄金時代と呼んで夢見るうちに、真夜中のプジョーに乗って本当にタイムスリップしてしまう。サロンで会うヘミングウェイはダンディで台詞回しは小説さながら。ガートルード・スタインに自分の小説を手直ししてもらい、ピカソの愛人のアドリアナと恋に落ちる。最後までソフトな笑いと文学・絵画へのオマージュとロマンチシズムを保つ、芸術へのオマージュ。


「いつまでも、どこまでも、ぼくはあなたに話していたい、ただ単に言葉でしかない言葉ではなく、大空にまで、彼方にまで、海にまで至るような言葉で。」こんな風に始まる『地上の見知らぬ少年』は、ル・クレジオのどこまでも詩的なエッセイ。ときに科学や現代文明にうんざりする様子を見せながら、あくまで「純粋さ」を追求する。海と光と大空への讃歌は詩情にあふれるが、同時に理屈っぽさも覗く。日常を消し去るかのような異化のまなざしは抽象性と固有名詞を駆使して、多幸感と躁転さえ思わせる。しかし、それでこれだけの分量を綴る軽やかな重みは真似できない。

取次へも行った

最近は、「著者営業」と言って出版社ではなく著者その人が書店をめぐる営業も流行っていると聞いた。『遊戯哲学博物誌』刊行にあたってぼくも書店を回り始めた。アポを取っても20分待たされて30秒しか話を聞いてもらえないこともあれば、飛び込み同然でも親切に応対してくれることもある。これがどんな本か的確に読み取ってくれる担当さんもいる。書店ごとに、とくに人文・社会・科学の棚を見る癖がつくが、一見似たり寄ったりのお店でもちがいがある。選書の面白さを感じる。

ル・クレジオ『地上の見知らぬ少年』、河出書房新社、2010