「エシカル」という言葉を聞き慣れないひとは、まだまだ多いと思います。『はじめてのエシカル』（末吉里花, 山川出版社, 2016）は入門書にも、さらに踏み込む時の道標にもぴったりの本です。
本が好きなひとなら、装幀や表紙（カバー下）、紙やフォント、組み方も美しいと感じるでしょう。紙は「エシカル」らしくFSC認証付きのペーパーを使っています。
＊FSC認証紙：責任ある木質資源を使用した紙
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さて、本書の中身へ入りましょう。
「すこやかな毎日を作るエシカルライフへ、ようこそ！」
「エシカル」とは、もともと英語で「倫理的な」「道徳的な」という意味ですが、カタカナ語としては「私たちの良心と結びついていて、人や社会、環境に配慮されている」ことを指します。
わたしたちの消費や生産活動において、ひとや環境に配慮した製品を作り、選び、使うことだとも言えるでしょう。
第1章の扉には、マーティン・ルーサー・キング Jr. 牧師の言葉が引用してあります。
「朝目覚めて、テーブルにつき、南米で作られたコーヒーや、中国のお茶や、アフリカからのココアを飲む。私たちは自分の仕事につく前に、世界中の人々から恩恵を受けているのです」
キング牧師は20世紀後半のアメリカで、黒人に対する差別に抗議して “I have a dream” のスピーチをした人物ですね。（公民権運動の指導者でノーベル平和賞を受賞しています）。
ここからは著者の末吉さんの話です。末吉さんはエシカル協会代表として学校で講演活動をしています。講演の時、子供たちに、
「今、あなたが着ている洋服はどこから来たか、わかる？」
と聞くと、ほとんどの子供は「わからない」と答えます。
そこで、インドの綿花畑では40万人の子供たちが働いており、大量の農薬が使用されているため多くの人が亡くなったり、病気になったりしていることを伝えると、子供たちの顔色が変わるそうです。なかには、
「どうしてこんなに大切な言葉を、誰も今まで教えてくれなかったの？」
と、みずみずしい感性で尋ねる子供もいるのだとか。
こうして「エシカル」への関心がはじまります。
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たとえば洋服、とくにファスト・ファッションが作られる現場は過酷です。
中国のある工場では厳しい暑さのなか、一日平均11時間、月に休みは1,2日だけ。バングラデシュでは休日がなく早朝から深夜まで働く例も。化学薬品の管理がずさんで、皮膚がただれたり、頭痛や体調不良が起きたりします。
こういった工場は「スウェット・ショップ」（搾取工場）と呼ばれます。
このような工場のひとつが、事前に危険性を指摘されていたにもかかわらず、崩落事故を起こしました。このバングラデシュにあった8階建ての違法建築ビル「ラナプラザ」の事故では1000人以上が亡くなり、2500人以上が負傷しました。先進国の有名なファッションブランドも数多くここで製造をしており、大きな話題になります。
こうしたひどい状況を見直そうと、環境に大きな負担をかけず、労働条件を適切にした「エシカル・ファッション」を普及させようという動きが盛んになります。
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ほかにも、ジュエリーの世界には、紛争にかかわっていない（たとえば武装勢力の資金源になっていない）宝石を「コンフリクト（紛争）・フリー」として使用する「エシカル・ジュエリー」もあります。
野生動物や森林に多大な被害をもたらしていない「パーム油」を使おう、という動きもあります。（パーム油は日常的に使われる油です。食べ物の「植物油脂」として使われますし、洗剤や石鹸の製造にも使われます）。
本書は、これら多くの事例をひとつひとつ丁寧に説明し、データとファクトを押さえて紹介していきます。
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本書の途中、著者がなぜ「エシカル」に目覚めたのか、キリマンジャロ（アフリカ最高峰）の登山体験が「原体験」として語られます。ぼくはこの話が好きなのですが、今回は紙面の都合で割愛します。
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では、ひとりの生活者、また消費者としてわたしたちにはなにができるのでしょうか。
ひとつは「ボイコット」（不買）運動で、問題がある商品は買わないことですが、それよりも、
「「バイコット」つまり、買って応援したり意思表示したりすることが、エシカルの神髄だと私は思っています。」
ネガティブよりもポジティブに行こう。エシカルな商品を作り、流通させ、小売を担う企業を応援しようということですね。
巻末を見ると、エシカルな消費の参考になる企業・ブランド名が120ほど、ずらり紹介されています。腕時計のシチズンや、チョコレートの原産地を応援する森永製菓、サステナビリティの界隈では先進的であるとして有名なpatagonia（パタゴニア）など。
起業家の立ち上げた小さなブランドも、気軽にみられるネット通販もあります。ちなみに、2019年の第4刷では情報が更新されています。
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このようにして、ひとつひとつの買い物で「選ぶ」ことから、エシカルははじめられます。少しずつ、楽しみながらエシカルライフを続けられたらいいですね。
エいきょうを シっかりと カんがえル ＝ エシカル