2020年3月28日土曜日

【仏教】般若心経、訳の試み


とあるきっかけから、般若心経の全文を訳してみました。

サンスクリット語の意味合いを活かしながら、漢文の音とリズムに気を配り、日本語のかな遣いが詩のような韻律を少し持ち、なによりなめらかであるように訳したつもりです。


***

なべて見はるかす菩薩(ぼさつ)は
智慧と瞑想を深く行い
この世にあるものはみな空(くう)であるとみそなわし
あらゆる苦しみを消し去りぬ
シャーリプトラよ 行(ゆ)け
世界は空にほかならず
空は世界にほかならず
なにもかも空であり
空であるなにもかも
この身に受くる理(ことわり)も
これまた空にほかならず
聞け シャーリプトラよ
輪廻の法も空であり
生まれず朽ちず
汚(けが)れず清まらず
伸びず衰えず
それゆえ空のうちには
世界もなく思いもなく
味わわれるものも知られるものもなく
触れうる喜びもたえてなし
誰も見ず
なにも心に映されず
無知もなく
無知の終わりもなく
老いて死することなけれど
また生もなし
苦しみをどうにかする術(すべ)もなく
学ぶこと得ることなし
さなり得ることもないからこそ
悟らんとする者よ
この無上の智慧と瞑想によるならば
心にこだわりなく
こだわりのなければ
もはや恐れるものもなし
惑いとまどろみをことごとく捨て去り
涅槃(ねはん)のうちに安らう
悟りを開く者はみな
この智慧と瞑想の果てに
どこまでも正しい境地に至った
ゆえに遍(あまね)き智慧と瞑想を知れ
それは精髄の教え
明らかな呪文
この上なき言霊
くらべるものもないことば
この世の苦を祓うもの
虚無なき真実
この智慧と瞑想のことばを唱えよ
唱えてすなわちいわく
往(ゆ)け 往け
さても往け
往けよ 彼岸に
悟りあれ
般若心経



*「般若心経」は大乗仏教の古い経典です。インドで生まれ、中国を経由して漢文で日本に入りました。原文はこちら

なお、『対談 風の彼方へ』(執行草舟, 横田南嶺, PHP研究所, 2018)に触発されて今回は訳そうと思い立ちました。その本の巻末に円覚寺管長である横田南嶺さんによる訳があり、参考にさせてもらいました。