2020年8月2日日曜日

新しいフリーランスのあり方、「マネジングプレイヤー」を考える



フリーランスという働き方が増えてくるなか、フリーランスのすぐれたあり方として「マネジングプレイヤー」というモデルを提示したい。

以下は、僕が出版・メディア業界で、マネージャーの立場もプレイヤーの立場も経験し、とくにマネージメントでいろいろな苦労をした実感をもとに書いた。しかし、業界を問わず、一般的に言えるのではと考えている。

管理職の働き方として、「プレイングマネージャー」という言葉は普及している。プレイングマネージャーとは、立場は管理職だが、マネージメントと同時に現場での仕事もする働き方を指す。

しかし、今回この記事で紹介したいのは、それを逆転させた働き方である。つまり、プレイヤーがチームやプロジェクト全体にとって必要なことを考えながら働くこと、それが「マネジングプレイヤー」だ。(なお、これは僕の造語である)。

【こんなケースを考えてみよう】

いま、Aさんがフリーランスのライターとして、メディアの運営会社から記事執筆の依頼を受ける。編集者のBさんは、同じ会社から企画・構成を含めてこの案件を丸投げされる。

マネージャーは編集者のBさんであり、プレイヤーはライターのAさんだ。


ケース1.マネージャーとプレイヤーがはっきり分かれた場合
編集者のBさんがスケジュールを組み、企画案をまとめ、取材先にアポをとることまでするかもしれない。

ライターのAさんは、事前の打ち合わせで指示された通り、指定された日時に取材先に行き、Bさんの用意した質問表をもとにインタビューをする。そして、Bさんの立てた「構成」通りに記事を書き、納品する。

さて、単発で仕事は終わった。依頼元の会社は編集者のBさんのマネジメント能力を高く買い、継続的な仕事を望む。他方、ライターのAさんは代わりがきくので次の仕事はなかった。


ケース2.ライターのAさんがマネジングプレイヤーだった場合
編集者のBさんが企画と進行をまとめた文書に、Aさんはコメントをつけたうえで打ち合わせ。取材先へのアポは、ライターのAさんが取る。ところが、コロナかなにかの事情で取材を断られてしまう。

そこで、AさんはBさんに報告する。「〇〇さんは断られたのですが、代わりに同業の□□さんはどうでしょう?」と提案してみる。編集者のBさんは、企画の変更を依頼元の会社に問い合わせるが、「代わりに□□さんでかまわない」との返事。

編集者のBさんはすぐに企画を修正し、リスケジュールをしたうえで、ライターのAさんに打診。新しい案の取材はうまくいった。

この一連の流れが、依頼元の会社に報告された結果、「編集者B、ライターAというチームでこれからも仕事を頼みたい」と言われ、ふたりは継続して案件を受け続ける。

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このくらい、ただのプレイヤーと「マネジングプレイヤー」は質がちがう。マネジメントに配慮できるプレイヤーというのは、マネージャーの負担を軽くするだけでなく、仕事全体によい相乗効果をもたらす。

とくにマネージャーの見落としやコミュニケーションのすれちがい、または外部要因によるトラブルが起きた時、プレイヤーが「マネジング」できるかどうかで全体のコストやアウトプットに大きな差が出る。

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ここに「カメラマン」のエピソードを付け加えてもいい。ただのプレイヤーのカメラマンは、編集者のBさんから「これこれの構図で、こんなテイスト」と指示を受ければ、その通りにしか撮らない。

しかし、「マネジングプレイヤー」のカメラマンであれば、指示を受けたうえで、自分でも判断する。

「依頼元の会社のオウンドメディアを見たところ、この記事ではもう一枚、写真を足してもよいと思いました」

「現場に行ってみると、こういうのも絵になると思ったので撮ってきました。構成案のこの部分にも合わないですか」

といった提案もできる。

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こういうことは、出版・メディア業界にかぎらず、どこでも起こりうる。ポイントは、こういうフリーランスを「できるやつ」「気の利くひと」といった曖昧な評価で終わらせず、「マネジメント能力が高い」と明確に評価すること。それが必要だと考える理由は以下。

今後、おそらくフリーランスで働くひとは増える。フリーランスを集めたチームでプロジェクトに当たることも多々あるだろう。同じオフィスにいる、顔見知りのメンバーが、ルーティンの仕事をするのとは全然ちがう。チームの全体にしっかりしたマネジメントがはたらくことが要求される。

フリーランスの仕事は、賃金・働き方・受注などにおいて、流動性が高く、労働環境は不安定になりやすい。そのなかで、「マネジメントへの配慮」という評価軸ができれば、安定性を増すことになると考える。健全な「労働市場」を作ることにもつながる。

また、これからの時代は、どんな業種であれ「クリエイティビティ」が重視される。それはデザインやコピーライトといった仕事ばかりでなく、企画や事業計画といったレベルでも、創造性が必要になる。

すると、そうした新しい事業やプロジェクトへの参加を依頼されるフリーランスの側も、その事業やプロジェクトのゴールを共有し、それをよりよく達成するためのクリエイティビティを発揮することができれば、より高い価値を提供できる。それがフリーランス自身の報酬や受注の継続にもつながる。

余談だが、かつての「フリーター」ブーム(90年代)では声の大きなメディアに踊らされて、また社会状況の悪化に巻き込まれて、多くのひとがフリーターになった結果、苦しい思いをした。今度、フリーランス化の波が来た時、似たパターンが繰り返されないことを願う。

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言われたことをこなすプレイヤーから、「マネジメントへの配慮」ができるプレイヤーへ。

新しいフリーランス時代に気をつけてよいことだと思う。