2020年11月6日金曜日

僕もまたヘレンと再会する

写真家、星野道夫の『イニュニック(生命)』をふと本棚から手にとった。彼がアラスカに家を建てた記録から始まる。

ぱらぱらと頁をめくる。「ヘレン」という言葉が目に留まる。ヘレンはアラスカに移住した白人のパイオニアだった。しかし、高齢になって「ヘレンはがんを患い」、ミチオは胸を騒がせる。結局、治療は功を奏し、ミチオはヘレンに再会する。


「ねえ、ヘレン。世の中で一番大切なものは、なんだと思う」

「友だちよ……。」


ヘレンの笑った顔が、写真で残されている。その目は、透明な水晶に北国の小さな太陽を宿したように光っている。

***

僕は「ヘレン」の名前を最初に見た時から、あるひとを思い浮かべていた。

そのひとについては「花降りて遠ざかりゆくひとびと」の記事に書いた。

そして、先ごろ三つの歌を詠んだ。


夕星(ゆふづつ)に静かに暮れてゆくものか 秋の祈りを古家に寄せて

ウクレレをつま弾く夜や秋深み 常と変わらぬ宵の明星

鎮もれる夜にカノンを捧げけり 御空に美しき宵の明星


『イニュニック(生命)』の本を通して、再会したように思えた。

去年、もらい受けた黒・白・茶のストールを、この秋も毎日のように身につけている。


僕の方のヘレンさんは、星野道夫の撮ったヘレンよりも、少しだけさみしさを湛えた瞳をして記憶のなかで笑い続けている。