2021年4月18日日曜日

旧東ドイツを舞台にした『革命前夜』。ひとすじの音楽を求めて

 


本屋さんにふらっと立ち寄ると、帯とPOPで店員さん激推しの文庫をみつけました。

旧東ドイツを舞台にした『革命前夜』(須賀しのぶ)を買いました。

エンタメ的な読みやすさと、歴史小説の醍醐味と、両方が楽しめますが、なによりも「今を生き抜く人間とはなにか」という問いに胸を打たれます。


読了後にこんなツイートをしました。

" 嘘が嘘で塗り固められていく。最愛の人を裏切る。隣りにいる誰かの笑顔、涙ながらの告白も本心なのかわからない。旧東独を舞台にもつれあう人間の心。そのなかでただ一つ真実なものは──音楽。"


主人公たちはみな音楽家で、ほとんどが留学生です。東独の共産主義、当局が作り上げた「密告者たち」のシステムのなかで、生きています。

それでも、自分自身の音楽を求めて、切磋琢磨し、傷つけ合い、母国や才能を背負っています。ライバル関係、恋、結婚、共演といった関係を結ぶなかで、裏切りや嘘、破綻と物理的な痛みも負います。それぞれの人生の宿命が描きこまれます。

主要な舞台は、旧東ドイツとハンガリー、逃げる先としての西ドイツ、そして壁のあるベルリンが主要な舞台であり、ベルリンの壁崩壊前(〜1989)までを扱っています。

しかし、読んでいてずっと今の日本に生きている実感と、物語の切迫感が密接にかかわるのを感じていました。


作品を通して現れるテーマは、(革命を呼び起こすような)「焔」、「それぞれの人生を戦う」「自分の音楽を貫く」といったことです。

お互いに馴れ合い、群れることを基本にすれば、人生の表面は平穏になります。

しかし、その裏では密告や激しい失望、出口のない孤立が起こります。

他方、一人ひとりが、自分の人生を前向きに生き抜こうとすると、孤独になり、苦しくもなりますが、初めて本当の人間関係も生まれます。

それは、他者の奏でる音楽への共鳴であったり、恋愛における心の触れ合いであったり、表面的には憎しみ合う楽友への尊敬の念であったりします。

そして、みなが同じ状況──旧東ドイツのディストピア的な社会を共有するようになり、そこに根ざす者も、外へ出る者も、ある意味で分かり合うのです。

こうしたことは、それぞれの人生を戦う、焔を持った人間にしか、できないことかもしれません。


今の日本の、エシカルを志すひとびとに日々、触れながら、そんなことを考えました。