2022年3月7日月曜日

ウクライナ情勢とこの後のロシアについて

以下、ウクライナ情勢をめぐって、主にロシアの今後についての考察です。

要点は、ロシアの内政が危機に瀕しているのではないか、その危うさが噴出し、ロシアが無政府状態や内戦を起こすことがあれば、国際的にも巨大な影響が出るという話です。中長期的に見ています。


【ウクライナ情勢の背景】

今、東欧ないし中央アジアにある小国ウクライナが、大国ロシアに侵攻されています。

ウクライナはもともと旧ソ連に属していましたが、ソ連邦崩壊で独立。地理的には、

・黒海に面している
・ヨーロッパとロシアの間にある

といった点で軍事的にも要衝です。

2014年にはウクライナの領土であるはずのクリミア半島(黒海)をロシアが併合しています。


【侵攻の理由とロシアの内政】

今回の侵攻は、突然で、また大義もなく、荒れ狂う暴力となっています。そのため、国際社会でもプーチン大統領に対する非難の声は高まり、世界各地でデモも起きています。


では、なぜロシアがこのような暴挙に出たのか、大きな理由は内政にありそうだと考えます。

旧ソ連として米ソで冷戦をしていた頃、ロシアは世界の二大大国の一つでした。しかし、冷戦後は、ITの時代への突入もあり、その波に乗ったアメリカが軍事と経済、両方の覇権国となりました。

他方、ロシアがプレゼンス(存在感。国際的な影響力)を発揮できるのは、


・核保有国である
・天然ガスや石油資源がある
・安保理の常任理事国で、拒否権を発動できる


これくらいでした。大国にしては、プレゼンスが弱いのです。

経済的には天然資源頼みで、すぐれた産業もなく、ソ連崩壊後、貨幣のルーブルは値下がりし、国際的に弱い通貨になりました。

経済も衰退していたのでしょう。国土がものすごく広いので、地方までインフラ(電気・水道・道路のほか、通信設備・wifiも含む)を整備するのは大変でしょう。


政治的にはプーチンの一強体制が続き、対外強硬路線を維持しました。

この間、政府に批判的なジャーナリストは毒殺されています。爆殺もありました。(「100%」政府がやったと言い切れるのかはわかりません。)

いずれにせよ、政敵を殺しながらの、諜報機関からの成り上がりであるプーチンは、「無敵の強者」を演出するブランディングによって、ロシアと自分を生き残らせてきました。

プーチンが倒れれば、ロシアが倒れるかもしれません。そのくらい一強の独裁体制といえます。


【なぜウクライナに急な暴力を加えているのか?】

さて、ウクライナに急な侵攻をして、大義(たとえば、ウクライナ領内の親ロ派を守るため、といった)もなにも掲げないのは、過激派武装組織ならともかく、大国のふるまいとしては異常です。なにか表に出ない事情があるのではないでしょうか。


たとえば、プーチンが癌で余命を宣告されている、精神疾患がある、難治性の病気にかかっている、などです。そして、ロシア経済が停滞し、社会インフラの維持も困難で、政治的には憎まれ、嫌われながらも独裁を続けるプーチンとしては、もう後がない状況なのでは、と想像します。


対外強硬路線で暴挙に出ても、「派手な戦争をやらかせる強面プーチン」「無敵の人」を演出しないと、ロシアの内政が崩壊する懸念を抱いているのではないかと思われます。もちろん、内政のみならず、自身の身を守る意味もあるでしょう。


【プーチン後のロシア】

しかし、この戦争がどういう推移をするにせよ、プーチンが以前の状態に戻り、安泰となり、老後は隠居して平和に暮らす、という未来はないと思います。国際社会も、ロシア内の政敵らも、若い世代も、そんなことは許さないでしょう。


プーチンは少なくとも政治的には、どこかの時点で抹殺されると思います。国際司法なのか、病気で動けなくなるか、内政で革新的な人物が取って代わるのかはわかりませんが。

問題は、その後でロシアがどうなるか、です。


一番よいのは、平穏に政権交代がおこなわれ、より若い世代の良心的な大統領と内閣が現れ、ロシアが民主化に向かう、という流れです。

一番悪いのは、クーデタや暗殺といった形でプーチン政権が倒され、政治的な内紛が、党派や財閥などの内紛につながり、ポストプーチンの権力をめぐって内戦が起き、ロシアが無政府状態になる、という流れです。


前者の場合は、経済がネックになるでしょう。お金が準備できて、それで雇用や産業を生み出し、国力を回復し、地方まで配分がうまくいけば、民主化も促されます。民主化も、結局は思想や良心よりも、お金の問題、というところは大きいでしょう。

後者の場合は、民衆が大変なことになります。2010年代に起こったアラブの春では、独裁政権が倒されても、その後で内戦・無政府状態に陥った国が、北アフリカ〜中東で多くあり、イエメンの人道危機、そして欧州への難民で話題になったシリアの内戦がありました。


【仮に、ロシアの内政が崩壊した場合】

これらと同様に、ロシアの内政が崩壊すると、人口規模で見ても、避難民や国内で困窮するひとが多く出るでしょう。

ロシアの人口は約1.5億人です。

参考までにシリアが約1800万人、日本は約1.2億、ドイツが約8000万です。また、経済的にも天然ガスや石油資源の豊富なロシア経済が停止した場合は、原油の高騰、それに続く物価の急上昇などが国際的に発生する可能性もあります。


なによりもユーラシア大陸の北でヨーロッパから中国までつながり、世界最大の国土をもつロシアが人道危機を起こせば、国際社会は非難より、むしろ救援に必死になり、収集がつかなくなるかもしれません。

ポストプーチンの政権が穏健でない場合、内政干渉も大きなポイントになって、介入は難しいでしょう。



【国の崩壊、人道危機、避難民・難民の歴史】

なお、シリアの内戦はIS(イスラム国)による暴力で、とてつもなく国土が荒廃し、ひとが死に、避難民が流出しました。日本だとNHKが取り上げていましたし、朝日新聞社は自社社員を現地に派遣していたようで、モスル陥落の写真やルポルタージュ記事を一面に載せていましたが、日本全体としては、ほとんど話題になっていない印象でした。

むしろ、シリアからの難民が欧州に着いて、欧州が彼ら・彼女らを受け入れたがらない、という問題の方がクローズアップされていたと思います。そのくらい、日本も、国際社会も、シリア国民の悲惨には無関心でした。


また、3.11も思い出されます。あの時は福島や宮城から、原発の影響を恐れたひとが多く、北陸や関東ほかへ移住しました。その移住先での生活が苦しかったり、差別があったり(彼ら・彼女らは放射能を浴びている、といった)しました。

それで、震災関連死と呼ばれる、震災後の避難生活のなかで亡くなるひとも、十年かけて漸増していました。自殺者も多かったようです。これも、日本の多くの国民は無視し、反応しなかったように見えます。政治家も復興というと、団地や防波堤のハード面ばかり話題にしてお金を落として終わり、という状況でした。


そして、今回のウクライナです。ウクライナの苦難は、まだ長く続くと思います。仮に停戦やロシアの撤退に早めにこぎつけられても、爆撃やミサイル攻撃で破壊された街の再建や、家族や人間の精神をズタズタにされたことの後遺症は、課題として残るでしょう。

国際社会や私たち一人ひとりは、10年後まで、そもそも来年の2023年まで、ウクライナ国民に深い共感を寄せて、支援し続けられるでしょうか?



【まとめ】

以上、考察の要点は、今後のロシアの内政が保てるか、内政が崩壊していく場合にはなにが起こりうるか、でした。

そして、ウクライナへの共感や支援が大切であるということ、しかし、直近の過去、シリアやイエメンの人道危機に対して、また日本国内の原発避難者に対してさえ、どれだけ私たちが冷淡であったか、ということの確認です。


今もまた、理知的で大局的な、そして冷静な眼をもって世界を見ること、歴史に学ぶこと、その重さと厳しさを踏まえたうえで、現状に対してじっくりと取り組むことが求められています。

こういった形で、私たちのエシカル(倫理的)や、地球と人間のサステナビリティ(持続可能性)は今も試されています。