2014年6月30日月曜日

【俳文】札幌便り(20)


六月は一番よい季節。札幌に爽やかな気配が満ちる。

松落葉かきわけゆくや池の鴨

松は枯れた葉を落とし、生まれ変わる。たしかに、常緑樹なのでわかりづらいが、池のおもては木々の落とし物でいっぱいに輝く。六月の初め。

たんぽぽの綿蹴り散らす夏の風

本州より遅いだろうか。

毛虫這う伸びてはちぢむ時計かな

じぃっと見ていると、時計のように思える不思議。

おはようございます先生ぴょんと跳ねる子さくらんぼ

「〜先生」までが「上五」。ほんとうに、小さな女の子が公園で(幼稚園の)先生を見かけた瞬間に両足でジャンプしたのだ。木には色とりどりのさくらんぼの時期。

トマトウを丸かじりして画廊ゆく

「トマトウ」はトマト。英語風の発音にした。札幌のギャラリーをめぐるのも楽しい。築百八年という古民家をそのまま使っているギャラリーもある。

古民家の蚊のいる厠おかしけれ

ちょっと拝借した。さて、次の句は、ほんとうにこう聞こえるのだが、どうしても季語が入らなかった。六月の季感がせめて伝われば。

チェンバロの響きやポプラわたる風

今年は、北海道も梅雨のような気候が二週間、続いた。これを「蝦夷梅雨」と呼ぶらしい。来る日も来る日も、曇り空で雨がぱらつく。太陽が恋しくなるなかで二句。

この皐月エメラルドして曇り空
母子像や蝦夷梅雨の日も抱きしめて

そういえば、北海道神宮の例祭もあった。降ったり止んだり、山車の列が市街地を練り歩く。白装束の女性がくるまに腰掛けていた。

白妙に小雨のかかる山車の席

さあ、蝦夷梅雨も明けると気持ちも草花も活き活きとしてくる。赤いひなげしを駐車場に見つけた。

ひなげしのごろごろ石の間にも

次は、公園の一風景。

夏の蝶追いかける足の短さよ

虫取り網の少年もいれば、部活帰りの中学生たちはおしゃべりしながら、堂々と道を歩きもする。

五月晴喜べる顔ジャージ服

夜には車も少なくなった往来をゆくと。

短夜に道を横切る猫ひとつ

野良だろうか。冬を越すたくましい猫たちもいると聞く。

夏みたびいまだに抜けぬ旅心

札幌に越して3年目の夏に入る。だが、いまだによその空の下にいるよう。それが心地よくもあり、北国の明けやすい朝を迎える。

夏至の頃眠りも浅くなりにけり

珈琲のせいか。