2014年7月30日水曜日

【俳文】札幌便り(21)

2014.7.30.

札幌には涼しげな風が吹き、7月の終わりの東京の暑さを忘れかけた頃に知らせが入る。東京の句友、恩人の村上博幸さんが句集『夏木立』を電子出版されたという。読めば素晴らしく、なにより句柄の奥底に、人柄の表出を超えた透徹のまなざしを見た。顧みるにどうしようもない句を詠むものだ、と自分の「札幌便り」を笑いながら今日も書く。

いただきます筍抜きの筍飯(たけのこめし)

独り居の献立はいつも似たり寄ったり。夏は、友人の来札も楽しい。

珈琲を出せり上布の友人に

北海道、夏の風物詩と言えばこれも。

メロン安しメロンうれしく手に乗せて

帰り道、ふっと驚くのは花の背の伸びたこと。

立葵顔見合わせる高さかな

目が合うというのか、居ずまいを正したくなる。

夏服のボタンをふたつ外しけり

けれども、こちらはそんな調子である。

ぱっと来て胸に飛び込むてんと虫

シャツのうえをもじもじ這う姿がいじらしい。ところで、フランス発祥の炭酸ジュースに「オランジーナ」があり、数年前から日本でも人気だ。僕もこの時期は好んで飲む。しかるに、歳時記をめくると「ソーダ水」「サイダー」「ラムネ」が並ぶ。

オランジーナを夏の季語にしちゃえ

札幌は短い夏を喜ぶのか、夏祭があちこちである。ふらりと顔を出すがすごい人出だ。

握る手もなくてぶらぶら夏祭

それで人恋しいというわけでもないが、夜はじっくりとなにごとかを考える。

夏の夜も物を思えば長きこと

出歩けば、なんとはなしに懐かしい匂いもする。

石鹸の匂いどこから夏の月

暦によれば、半夏生(はんげしょう)は物忌みの日という。飲食を慎むそうだが、僕の場合はカフェインを身体から抜くのに、たまに珈琲を飲まない日がある。

半夏生珈琲を断つ厳しさよ

次の句は、周りの住宅街でよく見かける光景なのだが、夏も冬も変わらぬ姿にふと胸を打たれる。

ヤクルトの手押し車も大暑かな

冒頭の話に戻り、村上さんの句集だが、「夏木立」のタイトルはここから来ている。

夏木立わけても椎に風のぼる 村上博幸

芭蕉ゆかりの地を訪ね、芭蕉の「椎」の句を念頭に置いている。句柄の高さに村上さんの背を仰ぎ見る心地ぞする。思えば、村上さんのお声掛けで初めて句会に参加し、小粋なうどんをご馳走してくださった、あれも夏。

武蔵野の冷麦うましごちそうさま

【書誌情報】『夏木立』、村上博幸、Amazon電子書籍(KDP=Kindle Direct Publishing)、2014