2015年2月11日水曜日

雪と水曜日

* エッセイ「雨と木曜日」シリーズの番外編。


ちょっとした冒険の話。喫茶店に並々ならぬ愛情を注ぐ某氏と初めて、彼のゆきつけの喫茶店で会おう、と持ちかける。待ち合わせた人物は、変わった帽子をまぶかにかぶり、長身でこちらを見下ろし、不敵に微笑んだかのように見えた。北海道を中心に、あちこちの街で古い喫茶店を訪れる。カフェではない「喫茶店」だけを。そんな喫茶探偵は、喫茶つばらつばらへすたすたと歩く。今日は、すでに3軒のお店で3杯の珈琲を飲んだ後だと言う。

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喫茶つばらつばらの珈琲は、ネルドリップで濃厚に淹れたものだが、「中煎り さらり」は円錐ドリッパーで落としたような透明感があり、おいしい。チーズケーキは正方形で、ふんわり生クリームがちょこんと添えてあり、お皿は工芸品である。喫茶探偵つばら、と仮に彼を呼ぶとして(断りなしに)、つばら氏は、札幌のジャズ喫茶、旭川の純喫茶、地方の入りづらいお店まで、体験談を次々と教えてくれた。ミルクセーキを啜りながら。

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そして、一冊の本を紹介してくれる。『さっぽろ喫茶店さんぽ』。昔ながらの喫茶店の、こだわりのある、長く珈琲にたずさわってきた店主たちが喫茶文化について語る。2001年刊だが、いまではないお店も多い。「北地蔵」はみなが口を揃えて良い喫茶店だったと言うが、自分はついに行くことができなかった、と喫茶探偵は呟く。ぼくは一度、訪れたが、雰囲気のある黒い内装でした。お別れ。さて、彼は5軒目へはしごしたのか。


【書誌情報】
『さっぽろ喫茶店さんぽ』、ノーザンクロス、2001