2015年4月17日金曜日

【本と珈琲豆】芭蕉に迫る、ホームレス川柳

〜「本と珈琲豆」は書評コーナーです。〜


ビッグイシュー日本が刊行して、全国のビッグイシュー販売者からしか買えない(書店には並ばない)幻の句集『路上のうた ホームレス川柳』。


季語を入れたり入れなかったり、自由に境涯を詠んだ300句が並ぶ。そこにはたしかな歌心があり、それは言ってみれば芭蕉に迫る。貧して笑い、苦しんでじっとこらえる句の数々は奥の細道の旅にも通じる。

洒落や売り文句でなく、本の奥底にそれを感じるのは、やはり家なき身が草庵を出た芭蕉の境遇に重なるからではないだろうか。

春の句から順に読んでゆこう。

寝袋に 花びら一つ 春の使者 (草)

散る花に 寝床取られる 春の宵 (髭)

優雅さも感じさせる。寝床を花びらに取られる奥ゆかしさ。


てふてふと 炊き出し並ぶ 昼下がり (髭)

のどかさ。てふてふは蝶。

夏バテだ 蝉の元気を 貰いたい (藤)

寒いけど 大地に抱かれ 眠りつく (藤)

凍えても 炊き出し行かにゃ あの世行き (草)

炊き出しの トン汁食べて 春を待つ (髭)

春待つ心地が伝わる。

枕元 門松がわり 靴を置く (草)

このユーモアは風流と俗っぽさに両方、通じて俳諧の面白み。

年賀状 住所なき身に 届かない (草)

炊き出しの カレーは今日も 星三つ (藤)

「三つ星」が明るい印象を起こす。

街頭で 募金したいが 無一文 (村)

笑いを呼ぶとともに、無一文でもひとのために募金したい、という自然なやさしさがにじむ。

東屋の 住所借りても いいのかな (髭)

公園にある「あずまや」だ。

百円が あれば安心 2〜3日 (髭)

ホームレス 戸籍上では 不老不死 (草)

とてつもない飛躍が句を踊らせる。

身内より 世話になります 他人様 (麺)

これは巻末の一句。

読みやすくて奧が深い一冊。
ぜひ、街頭で見かけたら手に取ってみてほしいと思う。


【書誌情報】
『路上のうた ホームレス川柳』、6人共著(大濠藤太(藤)、沢野健草(草)、髭戸太(髭)、村中小僧(村)、麺好司(麺)、山本一郎(山))、ビッグイシュー日本編集部(編)、2010、648円+税