七つのおはなしと少しの詩が収められた130ページほどの本。
「ふみこのおともだち」の「1はる」より。
はだしで なぎさをあるくのは いいきもちです。
とってもきれいな くろいすなのうえに あしあとが ぴたぴた ぴたぴた。
ふみこちゃんのあしは ちいさいから かわいい けもののとおったあとのよう。
ふりむいてみると ずっとつづいているかな?
そうだといいんだけれど なみがうちよせると けしてしまうのです。
こんな風に始まります。ほとんどがひらがな、たまにカタカナとかんたんな漢字が混ざります。やわらかいタッチです、が、終わり方がふしぎ。
どのおはなしも、結末らしい結末のないままに、すなはまにきえるあしあとのように終わります。
神沢利子さんの「解説」から引用してみましょう。
「しあわせな音楽をとねがう子のトランペットは折れ、なかまは倒れひとりになったひつじのこが追い求めた「そらのひつじ」は、みにくい雲のかたまりとなり、「コップの海」はもう戻りはしない。そうして、チンパンジーのガザドはほんとうにすばらしいサルの国を作ったのかどうか。
彼らを救う手だてもその問いに答えることばもなにひとつ書かれてはいない。」
1935年に生まれた作者の三木さんは、小児麻痺にかかり、幼い頃から右足首に後遺症を残して差別を受けたり、戦争で満州を体験している。こうしたつらい記憶が物語に見えない影を落としているのだろうか。