東京の花の頃、散策。ヤマザクラが咲いて、ソメイヨシノがゆっくりと後を追う。
翡翠(カワセミ)は一目散に花の雲
しゅっと一直線に飛ぶ、翡翠。花の下に潜り込む。
遠近(おちこち)の花の遅速や旅心
都内でも開花の遅い早いがあり、札幌はまだまだ。
居所もなし見るでなし花の客
ベンチに腰掛けて昼間を過ごす、けれども上に広がる花を愛でようとはしない老人。
願わくは桜の下で珈琲を
花びらが黒いお湯に乗ったら綺麗だろう。
風吹けば水に逆らう花筏
木の枝にしんと染み入る花冷えや
散歩はつづく。
蜘蛛の糸日にちらついて春霞
目の前の蜘蛛の糸は日の光にくっきりと輝くが、向こうの景色は霞んでいる。
水温む石まだ冷える尻の下
桜より花韮匂うこの頃は
しばし桜にも慣れた目は、足元にゆく。ハナニラは星のような花で紫陽花にも似た白と青の色調。
夏蜜柑いずこの出かなどんぶらこ
どこからか流れてくる夏みかんは春の季語。
はらはらと花散る里の旅出かな
菜の花の明るい谷をいでにけり
東京を出て札幌に向かう。今年も二度の花見になりそう。
葉桜や今日はむかしの明日かな
おぼろげで観念的な句。あまり観念は好まれないが。桜は時間の感覚がぐっと縮まり、ほっと伸びる。芭蕉の句、「さまざまのこと思い出す桜かな」が浮かぶ。
白樺もあっと言う間の新芽かな
北海道に帰ってきた。白樺は裸の枝をさらしているが、クロッカスが咲いた後、チューリップが咲く前にわさわさと新芽を出す。そして、出始めたらぐんぐん生い茂る。
ふらここや妹よりも揺れる兄
妹はまだ2,3歳、お兄さんはぐいぐい漕ぐ。ふらここはブランコ、春の季語。
昨年も一昨年も見た桜かな
やっぱり観念的に、単調になってしまう。おぼろな時間の流れ。
カタクリの葉の斑にみえる絵画かな
カタクリの花はほっそりと可憐だが、ふうわりと垂れ下がる葉の模様も面白い。
追いかけて木にふと隠れ春の月
歩いても追いかけてくる月は街路樹の陰に入って、春の幻。