2015年5月6日水曜日

【俳文】札幌便り(30)


東京の花の頃、散策。ヤマザクラが咲いて、ソメイヨシノがゆっくりと後を追う。

翡翠(カワセミ)は一目散に花の雲

しゅっと一直線に飛ぶ、翡翠。花の下に潜り込む。


遠近(おちこち)の花の遅速や旅心

都内でも開花の遅い早いがあり、札幌はまだまだ。

居所もなし見るでなし花の客

ベンチに腰掛けて昼間を過ごす、けれども上に広がる花を愛でようとはしない老人。

願わくは桜の下で珈琲を

花びらが黒いお湯に乗ったら綺麗だろう。

風吹けば水に逆らう花筏
木の枝にしんと染み入る花冷えや

散歩はつづく。

蜘蛛の糸日にちらついて春霞

目の前の蜘蛛の糸は日の光にくっきりと輝くが、向こうの景色は霞んでいる。

水温む石まだ冷える尻の下
桜より花韮匂うこの頃は

しばし桜にも慣れた目は、足元にゆく。ハナニラは星のような花で紫陽花にも似た白と青の色調。

夏蜜柑いずこの出かなどんぶらこ

どこからか流れてくる夏みかんは春の季語。

はらはらと花散る里の旅出かな
菜の花の明るい谷をいでにけり

東京を出て札幌に向かう。今年も二度の花見になりそう。

葉桜や今日はむかしの明日かな

おぼろげで観念的な句。あまり観念は好まれないが。桜は時間の感覚がぐっと縮まり、ほっと伸びる。芭蕉の句、「さまざまのこと思い出す桜かな」が浮かぶ。

白樺もあっと言う間の新芽かな

北海道に帰ってきた。白樺は裸の枝をさらしているが、クロッカスが咲いた後、チューリップが咲く前にわさわさと新芽を出す。そして、出始めたらぐんぐん生い茂る。

ふらここや妹よりも揺れる兄

妹はまだ2,3歳、お兄さんはぐいぐい漕ぐ。ふらここはブランコ、春の季語。

昨年も一昨年も見た桜かな

やっぱり観念的に、単調になってしまう。おぼろな時間の流れ。

カタクリの葉の斑にみえる絵画かな

カタクリの花はほっそりと可憐だが、ふうわりと垂れ下がる葉の模様も面白い。

追いかけて木にふと隠れ春の月

歩いても追いかけてくる月は街路樹の陰に入って、春の幻。