2015年6月26日金曜日

【古楽ラノベ】こがくりお〜第一幕「りゅーと誕生」


俺の名前は佐藤りゅーと。どこにでもいるはずの学生だ。変わっているのは、まあ、名前くらいだと思いたい。ちなみに、二つ上の姉は「りら」で、五つ下の妹は「くらう゛さん」。そう、うちは古楽一家なんだよ。


と、すでにこの第一段落で「もう興味ないわ」と思った読者諸賢は、この先は読まなくていいと思う。逆に、「ほうほう」とか「なんだかおもしろそうじゃん」と思ってしまった読者諸氏は、もうちょいつきあってくれ。

で、名前の話だった。問題は漢字表記だ。俺の名前も「龍人」と書いてりゅーとと読ませるのなら、まだ格好がつきそうなもんだが、残念ながら「洋梨」と書いてりゅーとだ。当て字にもほどがある。それでも、「半洋梨」でなかっただけマシなのか。姉は「琴」と書いて「りら」だから、読めなくはない。可哀想なのは妹で、「湾曲箱」って書いてあっても出席簿を読む先生は、そもそも名前だと思うのか?

「佐藤……ええと、なにかしらこれは」「クラヴサン」「はい、佐藤クラヴサンちゃん」。いまどき、保育園の先生も手慣れたものだ。中学1年のときは、妹の友達がずっと「くらう゛」に「さん」付けだと思っていたらしいが、もうこの話はやめよう。

両親は俺たちに古楽教育を施した。俺がまだ赤ん坊だった頃、父親と母親はいっしょになって「バロいバロいばあ」をして、幼い俺をあやしていた。ヴィオールを弾きながら「いないいないばあ」をすると、俺はきゃっきゃ笑って喜んだそうだ。しかし、それ、ヴィオールは関係あったのか?

ともあれ、この4月から俺も晴れて大学生だ。入学したのは、名門校の「国際自由学園」。「人間関係デザイン学部」や「芸術科学プレゼンテーション学部」は個性的な学生が集まるし、一番人気は「情報経営コミュニケーション学部」だ。ま、どこもなにしてるのかよくわからないんだが、俺は「リベラルアーツ学部」に決めた。

ここでも、オヤジとおふくろは「国際関係ルネサンス学部の古楽科に入れ」とうるさかったが、勘弁してくれ。「ヴァイスの子孫が在籍しているらしいぞ」なんて、まことしやかに嘘っぽい噂を聞かされても、知ったことか。少なくとも、入学式のときの俺はこの先とんでもない古楽キャンパスライフが始まるとは思っていなかったよ。これまでの人生が序曲にすぎなかった、なんてね。

第二幕へつづく。