2015年7月2日木曜日

【古楽ラノベ】こがくりお〜第三幕「謎の部室の男」

第二幕「ゆる古楽部ひとりぼっち」よりつづく。


あらすじ:国際自由学園に入学した、佐藤りゅーと。子供の頃から古楽教育を受けてきた彼は両親の助言にしたがい、「ゆるい古楽部」を立ち上げるが……。

***

ゆる古楽部を設立したはいいけど、部員がいない。そもそも、この学生会館は敷地の一番はずれにあって、ワリ食った部活の溜まり場なんだ。あと、アウトサイダーが巣くっていたり。どうやって部員を増やそうか?


俺は部室でぼーっとしていたが、隣の部屋からベニヤ越しにカチャカチャ音楽が聞こえてくる。隣のやつも暇してるんだろうか。だいたい、隣はなにやっているんだ? 看板ひとつない謎の部室を訪ねることにした。コンコン。
「すんません」
「どうぞ」
扉を開けると、40ぐらいの男が空飛ぶ絨毯みたいな敷物のうえで精神統一をしている、ように見えた。民族衣装を着ていて、ターバンの下からこちらを見上げた。
「なにか用か」
「いえ、あの、ここは…」
「アラ部だ」
え。聞き逃したのか、わからない。
「なに部?」
「アラ部」
「どんな活動をなさっているのですか?」
「アラビアについての研究」
アラブか!もう質問することもないし、共通点もないし、気まずい妙なムードが漂っているし、俺は回れ右をすると、「あ、失礼しました」と言ってアラ部を立ち去ろうとした。そのとき、アラ部に掛かっているBGMの正体に気づいた。

「これは…ムニール・バシールのウードではないですか?!」

「そうだ。アラビアの民族楽器、ウードを奏でる世界的な奏者、ムニール・バシールのCDだ。よくご存じだな」
「そりゃ、知っていますよ。俺は小さい頃からリュートを習ってきたんです。西洋のね、でも、そのリュートの祖先は、アラビアから渡ってきた……」
「ウードだな」とアラ部は言った。「きみはゆる古楽部の部長か?」
「そうです」
「扉のホワイトボードに「ゆる古楽部」と書いてあったらから、気になっていたんだ。おれを部員にしてくれないか」
俺はあっけにとられた。アラ部の部長(かどうかは知らんが)がゆる古楽部に?
「もちろんです!ぜひ、入部してください」
男はターバンをとると、短い天パーの黒髪を出して立ち上がり、握手を求めた。
「おれの名前は森田ウード、よろしくな」
芸名か。思わず、吹きそうになったが、なんとか平静を装った。ウードってどういう漢字で書くのか、気になるが、それは聞かないのがマナーだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします。俺は佐藤りゅーとです」
「りゅーとか。それはどういう漢字を書くんだ?」

あ、そこは聞くのかよ。こうして、初めての部員が入った。