2015年7月13日月曜日

【本と珈琲豆】『トリエステの坂道』で転ばないで…

須賀敦子さんの『トリエステの坂道』。死の影が詩のようです。描かれ方は、悲嘆の死ではなくて、過ぎ去った出来事の影であり、風化してゆく石のようで、それを生あるひとびとが穏やかとは言えない生活のなかで見守っている。そんな景色のつなぎ合わせ。
この本を読んでいると、自分が生きていることがふしぎに思えてくる。それは、生誕の神秘でもなく、生命があふれる感覚でもなく、ただ、若くして自分が亡くならなかったことへの驚き。

「トリエステの坂道」で転ばないで…ここまで来られたことに、はっとする。