2015年7月3日金曜日

くすみ書房の閉店レポート

写真は閉店直前のもの

札幌の老舗にして、全国的に有名な「街の本屋」くすみ書房は、2015年6月21日に閉店した。その数々のユニークな取り組み、「なぜだ!?売れない文庫フェア」や「本屋のオヤジのおせっかい」シリーズ、とりわけ「中学生はこれを読め!」の取り組みは、本屋好きにはよく知られていた。


活動の軌跡、詳しくはホームページが残っているので、こちら。(http://www.kusumishobou.jp/

最終日に集まるお客さん

そんなくすみ書房の閉店の知らせは、突然だった。6月の8日、9日が資金繰りのひとつの山場だったそうで、10日の夜にはSNSを通じて閉店が告知された。11日の北海道新聞の朝刊にも、閉店の記事が載る。あっと言う間にファンが集まり、最後の買い込みをして、久住社長とも別れを惜しんだ。そして、21日の夜10時半には集うファンに見送られて幕を閉じた。

雑誌の入荷をしない、とのお知らせ

長期的に見れば、2013年6月にも閉店の危機を迎えており、それは乗り越えたものの、その後おそらく一年ほどだが、本の仕入れに大幅な制限がかかっていた。そのため、棚が空く。2014年夏になってその制限がなくなり、一気に本棚が拡充された。「中学生はこれを読め!」「本屋のオヤジのおせっかい これだけは読んでおけ!/君たちを守りたい!」など、「選書」センスの光る棚も充実した。

ちくま文庫は最終日まで並んでいた

しかし、「本屋は、大規模チェーンでもないかぎり、計画仕入れが難しい」と久住社長は言う。「請求書が来るまで、請求額がわからない」(2015年5月9日トークイベント)。コンピュータのシステムで管理でもしないかぎり、どの一冊がいつ請求か、みな本ごとにちがうので、月々の請求額をあらかじめ計算できない。

そうした事情もあってか、突然の閉店となる。取次から閉店の「助言」を受けた、と久住さんは語っていた。

閉店前の空になってゆく棚
今回の閉店については、web上でも札幌の本好き仲間でも、あれこれの推測・意見が飛び交った。いわく「琴似に拠点を戻して、再スタートを切るための閉店」。また、「閉店に至る経緯、経営上の理由や失敗を子細に分析する必要がある」という意見。

一方では、ここに書けないこともあるし(追記:破産のことはこの記事を書いた時点で公表されていなかった。僕は裁判所から通知を受けていた)、他方ではよく知らないこともあるが、おおまかには次のふたつだと思う。

・今回の閉店は、戦略的なものではなく、完全に街の本屋の経営が成り立たなくなった、やむなきものであること。

・そうなった理由は、「出版業界の構造」上の問題と「出版業界の縮小」のふたつであること。久住さんの経営努力、創意工夫では、もうどうにもならない地点に至っていたようだと感じた。

「構造」についてかんたんに触れると、日本の出版業界は「出版社ー取次ー書店」の3層から成り、「取次」が強く「書店」の立場は弱い、と久住さんは言っていた。書店は、新刊書店を開くための保証金も一千万単位で積むと言うし、売上の粗利はわずかである。こういった構造のなかで、「書店側から独自の取次を作る」必要性にさえ、久住さんは言及していた(2015年5月9日トークイベント)。

とはいえ、「構造」と「縮小」に悩まされながらも、新しい試みをくすみ書房は続けていた。今年の春以降、「琴似に新発想の本屋を作ります」プロジェクトの資金集め、イベント&古書スペース「Bookbird」を店舗内に開く、店内改装による文具コーナーの拡大、漫画と文芸書の配置の大きな入れ替え、などの取り組みを直前に至るまで積極的に続けていた。

Bookbird 古書とイベントのスペース

2015年3月に開いたばかり

僕はくすみ書房のファンであったし、その選書の棚に出会って人生を変えられた。くすみ書房と久住邦晴社長への、感謝の気持ちは尽きない。

*閉店告知直後、まだいっぱいに本の並んでいる店内の様子*










*くすみ書房と共催したイベントの記録写真*