2015年8月31日月曜日

【ご報告】町田×本屋×大学 第4回「ルネサンス、古楽、知のコスモス」@東京

先日、東京、町田のブックカフェでおこなわれたトークイベントのレポートです。

日時:2015年8月29日(土)19-21時
場所:solid & liquid 町田店(ブックカフェ)
参加人数:30余名
参加費:2000円(ワンドリンク付き)


今回は、じわさんという方からご紹介いただき、西洋思想史のヒロ・ヒライさんとつながり、三人で音楽×思想のトークイベントを企画しました。


「音楽」と言っても、今回のテーマは「古楽」。「西洋思想史」と言っても、ヒライさんの研究は横断的な「インテレクチュアル・ヒストリー」。そこで、「ルネサンス、古楽、知のコスモス」というタイトルになりました。


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もともと、会場のブックカフェは以下のような趣旨でゆるやかに連続させてイベントを開いていましたので、その第4回に組み込まれました。

町田×本屋×大学町田マルイ6階のブックカフェ「solid & liquid MACHIDA」で開催しているイベント。都心ではなく「町田」で、インターネットではなく「本屋」で、小田急線や横浜線沿いの「大学」を横断して、出版文化を応援していく試み。


さて、ブックカフェ町田店長、東海大学の柳原先生(ファシリテーター)と僕らの三人で「ルネサンス、古楽、知のコスモス」の世界へ。ーー

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まずは、木村より、「音楽におけるルネサンス」の説明をしました。レジュメを使いながら、15,16世紀が「音楽におけるルネサンス」に当たる、という話です。

イングランド(のとりわけダンスタブル)が多用した「三度の和音」(ドーミ、ソーシなど)を取り入れた15世紀の巨匠デュファイが、和音の性格から進行まで明瞭に作ってゆくことで、近代的なハーモニーが生まれます。その均整美の重視を「ルネサンス」と呼んでよいでしょう。その始まりは、1420年頃と考えられます。

他方、ルネサンスの終わりは、バロックの始まりによって定められます。それは1600年頃、「通奏低音の登場」「オペラの誕生」「声楽と器楽の分離」「ヴァイオリンという独奏できる楽器の登場」などによって、特徴づけられます。


ここで、じわさんにバトンタッチ。じわさんは音源を用意してきてくださいました。グレゴリオ聖歌に始まり、「ロム・アルメ」(武装した人)という俗謡、それをモチーフにした、デュファイとジョスカンの「ミサ・ロム・アルメ」のさわりを聴く時間。中世にあった「ムジカ・ムンダーナ(宇宙の音楽)」と調和の思想は、「神の国の秩序を音で模倣する」という考えへつながります。ここのところ、客席から反響を呼びました。

【再生音源はこちら】
グレゴリオ聖歌: Veni creator spiritus
中世オルガヌム: Veni creator spiritus
ヨーロッパの俗謡(?): ロム・アルメ  L’homme Arme
デュファイ: ミサ曲 ロム・アルメ  L'homme Arme より キリエ
ジョスカン: ミサ曲 ロム・アルメ L’homme Arme より キリエ
パレストリーナ:ミサ曲 教皇マルチェリスのミサより キリエ
モンテヴェルディ:マドリガーレ Non Voglio Amare
ルネサンス期の舞曲: Branle couppe Pinagay


それから、最後にヒロ・ヒライ博士のパワーポイント。「天球のハルモニア」をテーマに、フィチーノに端を発し、ロバート・フラッド〜ヨハネス・ケプラー〜アタナシウス・キルヒャーへと続く天球の音楽、その調和の思想を図像をふんだんに織り交ぜて解説。

地球が中心にある天球の図、ケプラーの惑星音階(Youtube音源付き)、キルヒャーの世界オルガン。この時代の理論家たちがなにを考えていたのか、その途方もなさの一端が伝わってきます。みごとな紹介でした。

ヨハネス・ケプラー

ここで、質問タイム。司会の柳原さんからは、「宗教改革の古楽への影響は?」とのご質問。客席のお詳しい方より、「ルター派は歌詞が聞き取れるように配慮しました。それに対して、対抗宗教改革側も、たとえばパレストリーナは歌詞が聞き取れるポリフォニーを作るようになったのです。「言葉と音楽」の意識が変わりつつあるようです」との答え。このあたり、客席と登壇者側の距離が近づいて、楽しくなってきました。

さらに客席から、「ヒライさんへ質問です。当時の思想家たちは、音楽について音階への意識はありましたが、音符の長さへの意識はあったのでしょうか。たとえば、心臓のビートのリズムで、というような指示はあるでしょうか」というクリティカルな質問。「それは、なかったようです」との答え。つまり、時間への意識がなければ、実演ができない。

これは、そもそも数学や音楽について語るルネサンス思想家たちが、実際に歌い、奏でられた音楽そのものと乖離して思想を展開していたのではないか、という論点につながる。


木村は、リュートの隆盛の例を挙げつつ、「音楽についての思想が、社会のあり方を変え、それがめぐりめぐって音楽のあり方を変える、というルートがある」と説明し、「古楽と思想がじかに結びつかなくても、社会史をあいだに挟むことで影響するケースがある」と一応、まとめた。

このあたりは、古楽×ルネサンス思想という横断的な研究(=インテレクチュアル・ヒストリー、ないし科学史)にとって、重要なポイントになってくる、と現時点で木村は感じています。

ふたりはコスプレ(ルネサンス風)

以上の質疑応答ののち、書籍販売とサイン会、交流タイムが少し取られました。ソリッド&リキッド町田店の店長、スタッフのみなさま、ファシリテーターを務めてくださった柳原さま、広報をお手伝いいただいた東海大学の加島さま、じわさん、ヒロ・ヒライさん、お越しいただいたみなさま、ほんとうにありがとうございました。

文責:木村洋平


なお、当日の様子は、Twitterで実況、および感想が投稿されました。それをまとめた togetter がこちらにありますので、よろしければご覧ください。

以下、参考までに「当日、販売した書籍」、三人からの「参考文献」と「参考音源」を載せます。また、木村が制作し、当日に配布したレジュメを付けます。


【当日の販売書籍】
榎本恵美子 『天才カルダーノの肖像』 (勁草書房BH叢書、2013年)
金澤正剛 『中世音楽の精神史:グレゴリオ聖歌からルネサンス音楽へ』 (河出文庫、2015年2月)
菊池原洋平 『パラケルススと魔術的ルネサンス』 (勁草書房BH叢書、2013年)
木村洋平 『珈琲と吟遊詩人 不思議な楽器リュートを奏でる』 (社会評論社、2011年)
グラフトン 『テクストの擁護者たち』 (勁草書房BH叢書、2015年8月)
ヒロ・ヒライ、小澤実編 『知のミクロコスモス』 (中央公論新社、2014年)
プリンチペ 『科学革命』 (丸善出版、2014年)

【参考書籍】
(木村洋平)
金澤正剛 『新版 古楽のすすめ』 (音楽之友社、2010年)
http://www.amazon.co.jp/dp/4276371058/ref=cm_sw_r_tw_dp_yqa5vb1N23694

(じわ)
岡田 暁生 『西洋音楽史:「クラシック」の黄昏』 (中公新書)
http://www.amazon.co.jp/dp/4121018168/#_swftext_Swf

(ヒロ・ヒライ)
ゴドウィン『交響するイコン』(平凡社、1987年)
http://amzn.to/1homRC5

ケプラー『宇宙の調和』(工作舎、2009年)
http://amzn.to/1NGwbPw

キルヒャー『普遍音楽』(工作舎、2013年)
http://amzn.to/1X0DDIc

【参考音源】
(木村洋平)
CD:ダウランド、リュート作品全集(4枚組)ヤコブ・リンドベルイ演奏。ソロ・リュート曲の全集。ブリリアントレーベルより。安価に手に入る。http://www.amazon.co.jp/dp/B001716JQ0

ナイジェル・ノースによるリュート曲(ダウランド)録音
Nigel North records Lute Music of John Dowland for NAXOS 
https://youtu.be/8qIigZZb4ME

(じわ)
CD: DUFAY, Missa L'Homme Arme Naxos
http://www.amazon.co.jp/dp/B000001445/ref=cm_sw_r_tw_dp_T1U4vb1528433

(ヒロ・ヒライ)
ケプラーの星界のハルモニア(現代の解釈人による再構成)
https://www.youtube.com/watch?v=WihmsRinpQU

【レジュメ画像】


【レジュメ本文】

上記の画像(jpg.)に書いてある文章を文字で再掲。

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町田×本屋×大学 第4回「ルネサンス、古楽、知のコスモス」

◇音楽におけるルネサンス

◆ 1420年頃、デュファイの活動開始を起点に中世と分ける。三度の多用により、和音の性格が明瞭になり、均整美のある近代的なハーモニーへ。(金澤正剛説)

同時代のティンクトリスは、これを「甘美な響き」と呼び、また、フランスの詩人は「イングランドの表情」と表現した。(イギリスで三度がよく使われたため)。

◆バロックの始まり。1600年頃。「通奏低音の登場」「オペラの誕生」「声楽と器楽の分離」「ヴァイオリンという独奏できる楽器の登場」など。

オペラの誕生:16世紀後半、「カメラータ」ほかアッカデミア(同好会)がギリシャ悲劇の復活を目指す。1598年、史上最初のオペラ「ダフネ」上演。

声楽と器楽の分離:「ソナタ」(楽器で響かせる作品)と題された作品の初出は1597年、「カンタータ」(声で歌う作品)は1589年。


◇古楽のインテレクチュアル・ヒストリー素描

占星術と古楽:音楽理論家のボエティウス(480頃〜524)はすでに音階の各音と惑星を対応させていた。「ムジカ・ムンダーナ」(宇宙の音楽)の思想。

数比と古楽:2:3の整数比(完全五度)を中心としたピュタゴラス音律が使われる。

思想・占星術・医学と古楽:思想家のフィチーノ(1433-99)は、天界の「精気」(スピリトゥス)が地上の人間へ流れ込み、ひとの精気を涵養する、と述べる。その際には音楽が、とりわけ「歌」と「リラ」がその流入を助ける。

リュート:ルネサンス期には、古代ギリシャの「キタラ」「リラ」(竪琴)と混同され、「リラ」とも呼ばれる。そのために、かえって高貴な楽器とみなされる。

宮廷の祝祭:大がかりな機械仕掛けのスペクタクルと音楽 → オペラの下地を作る?

ヴェネツィア:16世紀から演劇が盛んで、印刷業の中心地でもある。海洋都市国家として栄えた。→ 17世紀には、オペラが大衆化する。

文責:木村洋平

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