十二の物語が収められているのだが、どれも短く読みやすく、やなせさんの挿絵も楽しい。中身は寓意的なものが多いが、知に走らず、戦争の苦しみと不条理、そして心にいつもやさしさをもつことをテーマにする。
その名も「アンパンマン」という小品もあるが、そこではアンパンマンはおなかからアンパンを取り出して分け与える。物語の最後では死んでしまう。
ここに原型があったのか、と思う。たしかに童話集は素晴らしいが、これでは100も200も書き続けることはできなかったろう。貫くテーマがシンプルだから。
そうして、マンガ(アニメ)のアンパンマンに辿り着いたのは、やなせさんにとって自然であり、よい着地点だったのだろうな、と感じる。
直接、講演会でお目にかかったこともあるが、お茶目な老人で、ハッスルして歌っていた(講演なのに!)。思索とやさしさ、持ち前の元気がやなせさんの作品のひみつかな?と。
【書籍情報】
『十二の真珠』、やなせたかし、サンリオ、1990(復刊。1970年初版)