2016年2月2日火曜日

【本の紹介】筒井康隆『旅のラゴス』より


筒井康隆の『旅のラゴス』から面白いシーンを拾ってみると、筒井さんの考え、生き様が投影されているような気がする。


『旅のラゴス』はロングセラーの小説だ。旅人のラゴスが北へ南へ旅をする。そのなかで、彼が図書館(のような場所)に閉じこもり、読書と学習に耽る場面がある。ここで彼は幸せを感じる。

「といっても、焦燥とは無縁だった。かくも厖大な歴史の時間に比べればおれの一生の時間など焦ろうが怠けようがどうせ微々たるものに過ぎないことが、おれにはわかってきたからである。人間はただその一生のうち、自分に最も適していて最もやりたいと思うことに可能な限りの時間を充てさえすればそれでいい筈だ。」(p.133)

ラゴスのこの考え方は、小説家の筒井さんが貫いた生き方でもあるように思える。『創作の極意と掟』という大変ユニークな本で、筒井さんは冗談を飛ばしながら、小説三昧で暮らしてきた自分の人生を肯定して、笑っている。

筒井さんは哲学をはじめ、勉強家でもあった。そんな筒井さんが独学するときの心得も、次の一節に反映されているだろうか。

「まことに、歴史というのは学問をしようという者にとってすべての学問の基礎であり、最初の学問ではなかっただろうか。」(p.135)

これもラゴスの内心の独白だが、真理を突いていそうだ。ここでは図書館シーンから引用したが、全編の旅もすらすらと淀みがなく、面白い。