2016年3月17日木曜日

【エッセイ】雨と木曜日(75)

2016.3.17.


今回は、春風駘蕩〜ブルンジの完熟チェリー〜ゼーバルト『アウステルリッツ』。


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春風駘蕩(たいとう)。札幌はここふつかでぐんと気温が上がって、ストーブのついた室内はもやもやとするほどの温かさ。ものみな、のんびりしているような風情で常緑樹にもつんつんしたところがない。雪解けで道路がびしゃびしゃになりそうなものだが、今年は除雪がよかったのか、カンカンと音を立ててヒールで歩けそうだ。外へくり出す若いひとは、春服でコーディネートする模様。ぼくはまだぬくいジャケツを羽織っています。

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早川コーヒー店へ久しぶりにゆくと、定番ブレンドのほかに、見たことのないブルンジの珈琲が。「完熟チェリー」と書いてあって、これ、ひとつの流行りらしいけれども、店員さんによれば「後味の酸味がよい」特徴とのこと。たしかに、これまでに飲んできた「完熟チェリー」豆は、すーっと酸味が強いのに、後を引かずにきゅっと締まる心地がする。100g 350円と良心的な値段も手伝って買う。淹れたら、とてもおいしくて春の味だ。

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『アウステルリッツ』。20世紀の後半を生きたゼーバルトがドイツ語で書いた、だが、本人はイギリスと縁が深く途中で移住している、回想録ともエッセイとも旅行記ともつかない小説。訳者は一語一語に惹かれたと言うが、それもよくわかる稠密な言葉たちがきめこまやかな文章を織り成し、列挙の技法(固有名詞を並べるといった)も何度も出てくる、自然誌も扱われ、なにより戦後ヨーロッパの「苦痛の痕跡」を辿る記憶の物語。文学の愉悦がある。


【書誌情報】
『改訳 アウステルリッツ』、W.G.ゼーバルト、鈴木仁子訳、白水社、2012