2016年7月1日金曜日

雨と木曜日(88)

2016.6.30.


木曜日更新のエッセイ。
今回は、梅雨の懐かしさ〜ブルーボトルコーヒーをかすめる〜ウェルズ『タイムマシン』新訳。



梅雨はうっとうしい季節だと思いながらも、6月後半に帰京したところ、案外、梅雨の空気は懐かしかった。ぼんやりと包み込み、まとわりつくような大気は久方ぶりで、馴染んだ頃を思い出した。札幌の空気は凛としており、もちろん梅雨もない。6月は一番、気候がよいと言われるが、それでも、どこか凄まじさをはらむ。東京の梅雨時、もやっとした感じは紫陽花の風情とも相まって悪くない。俳諧を育んだのはこの土地かと思う。


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新宿のNewomanにブルーボトルコーヒーが入っている。先日、空いた時間に立ち寄ったが30人近く並んでいただろう。ともかくも最後尾につく。ちらりちらりと時計を見ながら、配られるメニューをみて「シングルオリジン」という言葉を流行らせたのはブルーボトルなのかな、と考える。レジの前まで来て「珈琲を落とすのにどれくらいかかりますか」「10〜15分です」とやりとりして、時間がなく諦めた。まだ一度も飲めていない。


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H.G.ウェルズの『タイムマシン』を読んだ。新訳。これが素晴らしい。「いま、息をしていることばで」のコンセプト通り読みやすく、それでいてふだん使われない表現を盛り込んだ、原文よりよいんじゃないか?と勝手に考えたくなる池央耿さん訳。時間移動SFの嚆矢だろう。マシンの素材が真鍮や水晶でできている、というのがどこか可笑しい。解説、ウェルズの小伝も翻訳して収められており、こちらもセレクトがよかった。

【書誌情報】
『タイムマシン』、ウェルズ、池央耿訳、光文社、2012