2016年10月29日土曜日

ニーチェの小伝、ほんとに小さな。

ニーチェについて調べる機会があったので、紹介を兼ねて小伝を載せておきます。


 フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)は、20世紀の思想家たちに巨大な影響を与えた著作を矢継ぎ早に刊行しながら、不遇のうちに死んだ。とりわけ、「神は死んだ」という言葉は有名であり、著作ではキリスト教やヨーロッパの道徳を攻撃し続けた。この点でも、ニーチェの思想は面白がられたり、敬遠されたりする。また、著作の大半がアフォリズム(警句。短い断章形式)で書かれている点でも、解釈の幅は広く、謎めいており、読み手を魅了する。

 ニーチェは牧師の家系に生まれ、初めは父を継いで牧師になろうと考えていた、勤勉で優秀な子供であった。しかし、大学では神学の勉強をやめてしまい、古典文献学に打ち込む。ここで、古代ギリシャの陽気さや厳粛さ、神々の自由さといった感覚に馴染んだはずである。のちのニーチェの思想形成にとって、古代ギリシャ人の生き様や神話は強く肯定的な影響を与えた。

 二十歳を過ぎた頃、ショーペンハウアーの著作と出会ったことで、哲学に目覚める。他方、文献学者としては、若くしてスイスのバーゼル大学に招聘され、教授に就任した。学者人生としてはよい滑り出しだったが、処女作『悲劇の誕生』を刊行すると、あまりに独創的でアカデミズムから離れた内容は、大きな非難を受ける。ここから世間的な凋落が始まり、体調も悪化して講義ができなくなり、ついに放浪に出る。大学から年金を受け取りながら、スイス、フランス南部、イタリアの保養地を巡り、思索を深めては著作を出版してゆく。激しい病気の症状と闘いながら、1888年まで精力的に書き続けるが、この年の終わりに狂気を発して、その後は精神錯乱と進行性麻痺のうちに没した。

【参考文献】
『ニーチェ』、ジル・ドゥルーズ、湯浅博雄訳、1998、ちくま学芸文庫
『ニーチェーーその思考の伝記』、リュディガー・ザフランスキー、山本尤訳、2001、法政大学出版局
『ニーチェ伝、ツァラトゥストラの秘密』、ヨアヒム・ケーラー、五郎丸仁美訳、2008、青土社

 日本語では、本格的なニーチェの伝記(思想の解釈に踏み込みすぎず、アカデミックな評伝で、ぶ厚いもの)がない、と言ってよいと思います。
 個人的に好きなのは、ドゥルーズの小著の冒頭部分の小伝ですが、量が少ない。ザフランスキーのものは、著者による思想の解釈が混ざり込み、きっちり伝記としてまとめきれていない。ケーラーのものは、少なくともざっとは読んだ覚えがあるものの、あまりよい印象がありません。