2017年1月23日月曜日

最近、読んだ本の紹介


こんな本たちを読みました。かんたんな紹介。

アラン『芸術の体系』は500ページの分量で、芸術の多くの分野について全体像を丁寧に描く。『芸術論20講』は、その10年以上あとにまとめられた講義録。まずは、『体系』をおすすめ。

アランは理知的だ。一文一文が短くてシンプル。だが、自在な筆の運びで、前後関係、接続を見出すのは案外、難しい。わかりやすく書こうとしているのに思考が自由なのだ。

フランスのモラリスト(モンテーニュに始まる)の系譜。スーツを綺麗に着こなしてネクタイや時計もセンスが光る。けれど、ブランドに物を言わせるのではなく、心身の健全さが個性を放っている、そんな紳士の印象。

『芸術の体系』、アラン、長谷川宏訳、光文社、2008
『芸術論20講』、アラン、長谷川宏訳、光文社、2015
* 訳は熟慮し、時間をかけたもの。すぐれたアラン訳だと思う。

『ブッダ伝』は、ブッダと原始仏教(大乗、小乗に分かれる前)についての素晴らしい概説書。中村元先生は、パーリ語、サンスクリット語を修めたうえで、漢訳にも触れながら、丁寧にわかりやすく、穏やかに説く。

『ブッダのことば スッタニパータ』は『ブッダ伝』にも引用されている最初期の仏典。同じ内容を繰り返す文体は、原始への近さを感じる。他方で、後世にブッダが神格化されてまとめられていることもわかる。

『弓と禅』は、20世紀の日本に滞在したドイツ人哲学者が、弓道に触れ、感化され、禅の境地へ導かれてゆくさまを、西洋らしい理性の文章で綴った本。

『ブッダ伝』、中村元、角川ソフィア文庫、2015
『ブッダのことば スッタニパータ』、中村元訳、岩波文庫、1984
『弓と禅』、オイゲン・ヘリゲル、魚住孝至訳・解説、角川ソフィア文庫、2015

『インド神話』は、孫引きの引用、不正確な叙述などにより、原典に即して伝えられていないインド神話を正しく読むために碩学がまとめたもの。ギリシャ神話に匹敵する世界の広がりと魅力がある。

『インド神話』、上村勝彦、ちくま学芸文庫、2003

『昔ばなしの謎』は、日本の昔話、民話(桃太郎や一寸法師といった有名なものも!)を(比較)神話学の立場から読み解いていくもの。解釈の多様性を楽しめる。

『昔ばなしの謎』、古川のり子、角川ソフィア文庫、2016

『悪文』は、古くからある本だが、復刊された。本や雑誌の文章でも、些細な点でわかりにくく、不親切な文はある。その例が豊富で、ざっと読み、ためになる。

『悪文』、岩淵悦太郎編著、角川ソフィア文庫、2016

『九相図を読む』は、かなりマイナーな絵画論。禅や仏教思想で、死後の九つの相(人体が朽ちるまで)を眺め、観想することにより、無常を知る修行があった。そこで描かれた死後の人体の図を研究する。

『九相図を読む』、山本聡美、角川書店、2015

アランを除くと、東洋の思想・文学に関心が向いた今日この頃です。