2017年10月18日水曜日

雨と木曜日(146)

2017.10.19.


三週ぶりの更新。エッセイ。
今回は、近況報告『ピノッキオの冒険』*まどマギ劇場版*『アニー・ホール』*『わたしは、ダニエル・ブレイク』。



10月はあれやこれや仕事をするうちに時間が過ぎ、先日はとある会議のあと36時間眠る(!)という体調の崩し方をして、やっと復帰。9月は20冊以上の本を読めて幸せだったが、今月はわずか2冊。うち1冊は、ディズニーで有名なピノキオの原作『ピノッキオの冒険』。19世紀創作童話の傑作で、いまでも祖国イタリアで愛されている。原典はかなり異色だよと聞いていたが、なるほど、残酷、悪意、嘘つきなどの要素が盛り込まれており、これでよく当時の「子供新聞」に連載されていたな!と驚く。どこか『ティル・オイレンシュピーゲル』を思わせる溌剌と民衆に根ざした感性だろうか、そこが喜びにつながる。


まどマギを劇場版(ダイジェストと新編)で観た。とても面白かった。魔女アートの世界観が好き、といった点も大きいが、なんといってもストーリーが作り込まれている。そして、エヴァンゲリオンのように視聴者を裏切る要素が強いのもすぐれた仕掛け。サブカルだと「キャラクター」の魅力や「世界観」の特異さで惹きつける作品は多いが、「ストーリー」を最初に立てて貫き、そこにキャラクターを配分していくような作りは変わっているし、成功例だと思う。


『アニー・ホール』はウディ・アレン初期の傑作。1年ほど前に観たときは感銘を受けず、ざわついた映画だな、ウディ・アレン節で好き放題だなと冷たい感想を抱いた。けれど、今回はじんわりと響いた。恋愛のリアリティを描いてユーモアを忘れず、インテリ男性の寂しさを漂わせる。他方で活発に明るくなってゆくアニー。こんな対比と人生を描いて、遊び心にあふれた優しい映画だ。


『わたしは、ダニエル・ブレイク』。2017年日本公開のヒット映画。タイトルの「わたしは」(原題:"I, Daniel Blake")は、「誰もが」ダニエル・ブレイクになりえるという含意だろう。この点、「わたしはシャルリ」(仏シャルリエブドの襲撃事件)のように政治的色調を帯びていると言えそうだ。ダニエルは国家の怠慢とお役所の非人間性の犠牲になる。ストーリーはわりと単調でひたすら下降線をたどる。たしかに、すぐれた映像や演技はあるが、観る側はダニエルたちに共感するほか選択肢がなく、多様な解釈はありえない。こうした点、社会派のプロテスト映画であるとともに、「エリートはダメだ」というポピュリズムにつながりうる作品でもあると感じた。(参考:『ポピュリズムとは何か』中公新書)…ちょっときつい見方かな?

藤袴(ふじばかま)