2018年9月14日金曜日

『夜空を見上げて』まえがき


Kindle新刊『夜空を見上げて』の「まえがき」を公開します。


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 この本は、前作『ちょっと木になる童話集』と同じように、大人のための童話集です。もちろん、子どもが読んでくれたらまたうれしいのですが、ちょっとむずかしいところもあるかもしれません。正確には、「子どもの心を失わない大人向けの童話集」でしょう。
ミヒャエル・エンデは『モモ』や『果てしない物語』で有名な児童文学作家ですが、こんな文章を残しています。

「九歳でも九十歳でも、外的な年齢とは無関係に、わたしたちのなかに生きるこの子ども、いつまでも驚くことができ、問い、感激できるこのわたしたちのなかの子ども。あまりに傷つきやすく、無防備で、苦しみ、なぐさめを求め、のぞみをすてないこのわたしたちのなかの子ども。それは人生の最後の日まで、わたしたちの未来を意味するのです。」(『エンデのメモ箱』より)

 エンデはこの文章において、この世界で(二十世紀の後半でした)「本当の大人」になりたくはない、なぜならそれは魔法をなくし、つまらない、頭がちょっとよいばかりのダメな人間たちだから、とはっきり言っています。そして、「永遠に幼きもの」がわたしたちのなかにはあるのではないか、と問います。

「わたしたちみんなのなかにひそむ、この子どものために、わたしは話を語るのです。」

 エンデらしい、すぐれた考えだと思いました。おぼろげながら、こんなことをぼくもまた考え、大人になったり思春期を迎えたりした、もう子どもではいられない子どものために、この本をここに置きたいと思います。

二○一八 秋 木村洋平