2020年3月4日水曜日

【エシカル/SDGs】森とお金の生態系──「森林ファンド」の活躍


森林がビジネスになる。どうやって?── 木材を売るだけでなく、CO2の吸収も経済的価値になるから。そんな話を「森林ファンド」にくわしい方に聞きました。



──「森林ファンド」というのはどういう仕事ですか。 ファンドは投資家からお金を預かり、増やして返します。最近のファンドは、株や債券などの金融商品だけでなくリアルアセット(不動産など)で運用するところも出てきていますね。なかでも、森林ファンドは森林に投資して運用するのです。 森林ファンドは、アメリカやオセアニアを中心に20年以上の歴史があります。これまでは年金基金のような機関投資家に人気のあるアセットクラスでしたが、世界的にもとくにこの半年、森林投資がソーシャル・インパクト(社会的な効果、反響)が大きいものだと認知されてきており、投資の裾野が広がり始めています。ESG投資の中でも、単に上場株の選別を行うのではなく、実際のインパクトを追求する動きですね。 * ESG投資:環境 Environment・社会 Social・企業統治 Governance に配慮した投資のこと。

──この半年というと、つい最近ですね。 そうです。2019年12月にマドリードで開催されたCOP25がこの動きに拍車をかけました。民間部門では各企業のコミットメント発表などもあり、成果の大きい会議だったのではないでしょうか。政府部門の交渉は低調ですが。(笑) *COP25:国連の気候変動に関する会議。CO2の排出を抑えて、地球温暖化の影響を少なくしようとしている。

──COP25と言えば、グレタさんがヨットで大西洋を横断して参加しましたね。 そうでしたね。気候変動については、大気中の温室効果ガスの削減が課題です。これまで産業界が打ってきた対策は、エネルギーの効率的な利用によって二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすものが中心でした。とくに日本はそういった技術の分野で削減に寄与しています。 けれども、「削減」だけでなく、CO2を自然の力で「吸収」することにいま、注目が集まっています。それが、COP25でも議論の中心となった、NCS──Natural Climate Solution(自然による気候変動の解決)と呼ばれるコンセプトです。 森林ファンドは森林を保有・運営することで、ファンドに投資した企業に対し、気候変動の問題を解決する手段を提供できます。


──なるほど。森の管理はファンド側がするのでしょうか。 はい。FSC認証(https://jp.fsc.org/jp-jp)やPEFC認証(https://sgec-pefcj.jp/)という厳しい基準があり、これを守るように森林ファンドが管理・保全をします。この認証は、森林の管理から流通にまでかかわっています。生物多様性保護のような森の状態にかぎらず、林業従事者の労働環境、法令遵守、地域との関係構築、先住民の権利保障など幅広い観点をもっています。それらすべてにおいて適正とみなされた森林ビジネスにのみ、認証が下ります。こういう認証があることで、エシカルな森林ビジネスができます。


 ──気候変動やESG投資を取り巻く状況についてもう少し伺ってもよいですか。COP25のほかにもポイントがありましたか。 2015年に設置されたTCFD(気候関連非財務情報開示タスクフォース)は、気候変動にかかわる事業リスクを企業が開示する際の基準を提言しました。 TCFDに賛同する企業数は世界のなかでも日本が多いです。環境省が推進していることもその理由ですね。 ──そういう情報が開示されると、ESG投資もしやすくなりますね。 そうです。また、これは私の肌感覚ですが、SDGs は日本では2019年の後半から一般の企業にも一気に浸透してきた印象があります。なにをすればいいかはまだわからない、でも、SDGsのためになにかをしなきゃ、というムードを感じますね。


──たしかに、2019年は気候変動と海洋プラスチック問題を中心としてSDGs が注目されたように思います。森林のCO2吸収量がどのように着目されているのか、もう少しくわしく聞かせてもらえますか。 Natural Climate Solutionsのコンセプトが知られるようになってからは、とくに森林のCO2吸収作用に着目した投資を進めよう、という動きが加速しています。通常の林業活動に加えてプロジェクトを行った場合は、「カーボンクレジット」、CO2をどれだけ追加で吸収したかを数値にして明示したものの付与を受けることができます。これは売り買い可能です。 ──つまり、「排出量取引」に組み込むのですね。 そうです。カーボンクレジットの単位は、” tCO2e ” と書きます。t はトン。e は equivalent (等しい量の)です。これまでの植林事業は「木を切ってお金にする」でしたが、いまは「木を切らずにお金にする」こともできるようになりました。 また、数多くの大手企業が、「カーボンニュートラル」*企業活動においてCO2の排出量と吸収量が等しくなること。すなわち、排出量がゼロになること)を目指すことを宣言しています。彼らにとっては、(クレジットではなく)森林を保有し育てて吸収量を確保することも重要になります。


 ──森林をめぐってエシカルな取り組みが注目されていることがわかりました。ありがとうございます。 いまはエシカルな活動をするとき「お金をもうけることはクール」というムードを感じます。結局、お金が回ることが事業や取り組みをサステナブルにするからです。
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森と都市の間でCO2が循環するように、お金も循環する。そうしてお金が回らないと、思いも空回りするのかもしれません。ビジネスとして「持続可能」であるエシカルな活動がこれからも生まれてくるでしょう。



取材・文:木村洋平
 写真:Unsplash より