何度も考えて来たことを、ようやく言葉にして表現しようとする。文章はすらすらと続く。最後に、一番大事なところに差し掛かる。そこで、ひとつの思想が完結するはずだ。
筆はいままでと同じように運ぶ。だが、その重要な曲がり角、いや、直線の道の真ん中で、なぜか筆が滑る。まったく真逆の方へ行き、文章と思想の全体が堕ちる。私もろとも。作者の。
なぜ、それを言い表せないのか。
それは大それた真理といったものではなく、人生経験を小さな結晶に封じるほどのことではないのか。みかんを剥いて食べるより難しいのか。
私に、勇気がないのか。ちがう、勇気があるから、書き下ろそうとしたはずなのに、そしてめがけてまっすぐに書き綴ってきたのに、なぜ最後に全部が台無しになるのか。
「真っ白な頁」や「無」よりもわるく、書いたことに嘘が混じってしまうと感じる。
それなら沈黙せよ、と言われているのか。だが、いま言わなければ。
明日という日はないのかもしれないのだから。