空っぽの日をおもしろくする麦茶
トポトポと満たされるのは、器ばかりではなく。どことなく爽快な気分で書く。
香水のふと立つペンをもつ手にも
出先で書けば、自分でつけた香水に驚くことも。七月の半ばに函館を見て回った。函館は北海道でもっとも歴史の深い街。とりわけ古い家並み、商店の残る谷地頭(やちがしら)から歩き始めた。
白靴を古めかせたる谷地頭
「古めく」は自動詞と思うが、ここでは他動詞に使った。函館山の麓をゆけば、元町に出る。有名な教会群と巨大な瓦屋根の寺院。神戸の異人館街に趣は似るが、まったくの観光地とされるより、周りの街並みに馴染むところ、横浜も思わせる。
元町の坂を転がる夏帽子
夏シャツの連れ立ちて入る(いる)ハリストス
ハリストス正教会は、ロシア系の薄緑の教会。外国人観光客は、涼しげな格好で中を覗く。夜は、函館市民で作る、野外劇を観にゆく。
あおぐ手も止まる団扇や野外劇
壮観であった。五稜郭を舞台に、光が行き交い、船が訪れ、華やかな衣装姿が走り回る。函館の歴史を十五の場面にして表す。わたしはいつまでも拍手していた。翌日は、ロープウェイに乗って昼の函館山へ。夜景はかなわなかったが、市街をよく見渡せた。
ハンカチの先に津軽の海狭し
函館は、ガスり(霧がかかり)やすい港町で、下北半島もこの日は見えなかった。札幌へ帰ると、夏の催しがもっとも多い時期になった。
飲めずとも割り箸割らんビヤガーデン
後ろ身はなどかさみしき浴衣かな
風鈴が身体の芯に響きけり
ひらひらを好かずに迷う白日傘
打水をかぶって笑う子供たち
最後のは近所の光景。そうもできない大人はせめて靴を履き替える。
サンダルの形をなぞる日焼かな
じめっとした日は、梅雨のない北海道にもある。そんな日は
洋服を引っ掛けた身も土用干
晴れたら、からだごと干してしまいたいと思う。それから、また生活句。
露台には北国とても夜の匂い
夏掛けを手繰り寄せては眠り込む
夏の夜にふとベランダ(露台)に出たときの匂いは、東京と同じで懐かしさを覚える。夏掛けは、夏の蒲団。こちらは、七月も終わるというのに、紫陽花が色鮮やかに咲き誇る。
紫陽花に紅さす七月の終わり
リズムが変則的な句。次の「水中」(みずあたり)は、水物の摂りすぎでおなかを下すこと。夏の不調のひとつ。
水中するも寝っころがればよし
夏痩せも本を読みなば忘れけり
もっとも、本で忘れてしまっていいものか。栄養のない飲み物がよくないのかもしれない。
しばし待て夏炉に沸かす珈琲を