ずっと広大な宇宙へと眼を上げ ひとり海の面に佇む
水よ なにを湛えているのか 一つの金貨かそれとも星空か
笑いも木霊しない冷たい土地へ いざ足を歩ませようと
それでためらうのか 真面目に降り止まない雨を遡ろう
某詩人(故人)の話。敗戦の一週間後、市内で「白昼の惨劇」を目撃した。男が別の男を暴行している。見ぬ振りができず凝視しているうちに、暴行を加える男がかつて自分を取り調べた憲兵だったことに気付いた。痛めつけられているのは朝鮮人労働者だった。詩人は近づいて、昂奮している元憲兵の肩に、優しくそっと手をかけた。こちらを見た男は、詩人を認め、ああ、しばらく、といった。そして、憑きものが落ちたように、暴行をやめて、その場から去って行ったという。
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